会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

ライブ・エンタテインメントの未来は業界が一致団結することから見えてくる(1)

撮影:宇都宮輝

今号から本格的にリニューアルした『A.C.P.C. navi』。巻頭には毎号、中西健夫ACPC会長が自ら人選を行い、アップトゥデイトな「今、この人に聞きたいこと」をインタビューする対談が掲載されます。音楽業界のキーパーソンはもちろん、他ジャンルにも人選を広げ、ライブ・ビジネスのヒントになるようなトークを展開していく予定ですので、どうかご期待ください。
第1回のゲストには、日本音楽事業者協会(以下、音事協)の尾木徹会長にご登場いただきました。尾木会長は、渡辺プロダクションを経て、1978年にプロダクション尾木を設立し、代表取締役に就任。2007年からは音事協の会長も務め、文字通り、日本のエンタテインメント界を支え続けている方です。中西会長にとっては、業界のキャリアでも、団体の長としても大先輩であり、胸を借りる形の対談になりましたが、二人の対話からは、同じ未来を見つめていることが、はっきりと感じられました。

震災が音楽業界に与えた影響。対話と団結、そして継続へ

尾木徹
一般社団法人日本音楽事業者協会会長
株式会社プロダクション尾木代表取締役社長

中西:尾木会長と初めてじっくりとお話しさせていただいたのは、各団体の協力によって開催された去年の復興祭(東日本大震災 復興祭2011〜子供たちの未来のために〜)の時でした。またその後、私のラジオ番組(bay FM『Music Goes On』)にもご出演いただき、ありがとうございました。

尾木:それまではお話しする機会が、あるようでなかったですからね。東日本大震災は日本に未曾有のダメージをもたらした大変悲惨な出来事でしたが、そこから立ち上がろうと音楽業界の仲間が心を一つにしたことによって、団体の垣根を越えたコミュニケーションが生まれたことも確かです。
音事協の内部でも、演歌キャラバン隊などの支援活動を通じて、歌手やタレントの皆さん同士もそうですが、我々マネージメントとアーティストのつながりも、よりタイトになったと思いますね。ありふれた言い方ですが、絆が強くなったと感じました。

中西:コンサートプロモーターも、震災以降、特にチャリティ関連の現場ではアーティストと直接話をする機会が増えたと思います。

尾木:我々も同じです。大御所の歌手の方々から「いつでも言ってください。どこにでも歌いに行きますから」と私に直接電話がかかってきたり、NHKのチャリティコンサートの時は、司会の藤原紀香さんが演歌キャラバン隊の活動を知って、うちの理事に「次は私が必ず行きます」と言ってくださったり。震災以前から音事協ではさまざまなチャリティ活動をやっていたのですが、演歌キャラバン隊は特に自ら進んで参加してくださる方が多いですね。

中西:僕もちょうど今、プリンセス・プリンセスが震災チャリティ限定で再結成したプロジェクトに携わっていて、これまでも震災復興のためのコンサートに多く携わってきましたけれど、今後のことを考えると継続させることの難しさを感じざるを得ないんです。去年は本当に色々なイベントがあって、今年は徐々に減ってきて、来年がゼロになってしまったら意味がない。そんな危機感を持っています。

尾木:自分たちにとっての原点とは何かを、思い出す必要があるんじゃないでしょうか。震災を経験したことによって、いいものを作りさえすれば、お客さんは喜んでくれるのだということを私たちは改めて確認したと思います。やはりそれを忘れてはいけないんですよ。もう一つのテーマは、共存共生ですよね。音楽業界全体が一緒に何かをやることの大切さがはっきり見えてきたと思います。

中西:復興祭のように大規模なものではなくても、ぜひ来年には、改めて何か形に残せないかなと思っています。

尾木:業界の発展を考えるなら、時にはやはり全体で力を合わせて何かをやることが、とても大切ですよね。まずはそれぞれが、コンサートでも良いステージを作り、メディア側であれば良いコンテンツを作る。次の段階では、業界全体で力を合わせて一つのものを作る。その先には海外展開の戦略も見えてくるのではないでしょうか。
音楽の世界も、テレビの世界も不況だと言われる中で、こんな時こそ業界を立て直そうという機運を、もう一度取り戻すべきです。

「プロ」のコンサートとは?分業制の問題点と利益構造

中西健夫
一般社団法人コンサートプロモーターズ協会会長
株式会社ディスクガレージ代表取締役社長

尾木:コンサートのことを考える時に、私が思い出すのは、松任谷由実さんのステージを見た時のことなんです。内容的には本当に素晴らしいもので感動しましたが、その反面、危機感も生まれました。ステージに象が出てきたり、とにかく舞台にお金をかけているでしょう(笑)。

中西:コンサートというよりも「ショー」に近い感覚で、他のアーティストのステージと全く違っていましたので、当然、制作費もかかっていたでしょう。松任谷由実さんの挑戦が、我々ライブ業界に夢を与えてくれたと思います。

尾木:ああ、こういうステージをうちに所属しているシンガーやアイドルも、やりたがるなと。もう見た瞬間に思いましたよ(笑)。松任谷さんであれば、アルバムの利益をステージにつぎ込んで、それがまたアルバムのプロモーションにつながる。要するに幸福な循環があるわけです。でも、アルバムのセールスが中心ではないアイドルが同じようなことをやっても、これは成立しません。

中西:確かにそうでしょうね。

尾木:この時の危機感は、後にやはり現実になりました。当時の所属していたシンガーのコンサートがあって、大阪城ホールへ行った時に、駐車場には10トントラックが11台くらい並んでいたんです。最初はすごいなあと思っていたんですが、これはうちのコンサートだと気がついて(笑)。ショックで会場にそのまま入れなくなって、思わず大阪城に登りましたよ。

中西:気持ちを鎮めるためには、大阪城に登るしかなかったんですね(笑)。

尾木:気持ちを冷ましてから会場に入りました。つまり、コンサートもビジネスですから、ビジネスとして成立しなければ、やる意味がないわけです。ビジネスにするのがプロなんだと。お金が稼げないコンサートというのは、プロの仕事ではないわけです。舞台に制作費をかけるならまだしも、楽屋にマッサージルームを作ったり、ケータリングを頼んだりまで始まってくると……。

中西:間違いなく利益は上がりませんよね。コンサートの現場も、専門的な会社やスタッフが多く関わることになって、規模が拡大していくと、その専門職の方々にはお金が回っても、プロダクション側、主催者側は利益が上がらないという構造になっていきますから。

尾木:昔は照明も音響もマネージャーが自分でやっていた時代がありました。私も自分で照明を当てていましたから。マイクの操作もして、緞帳も下げて。マイクのコードが触れて、女性歌手の衣装が汚れないように、コードをぞうきんで拭きながら、ステージへ向かう方向にさばいたりする技術が現場のマネージャーにはあったんです。今はすべて分業、分業で、専門職に稼いでもらうためのコンサートみたいになってしまっているのが非常によくないと思います。


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