ライブ・エンタテインメントに携わる私達は本来、政治と関わることがほとんどありませんでした。それがチケット不正転売禁止法成立へ向かう道程や、コロナ禍で様々な問題に対峙した経験を経て、行政や立法の世界にも多くの知己を得ることができました。そして2023年を迎え、これまでのような逆風の中での取り組みだけではなく、音楽のポジティヴな未来を描く文化行政のリーダーが注目されています。それが今回の対談ゲスト、都倉俊一第23代文化庁長官です。ご存知の通り、都倉長官は作曲家として数多くのヒット曲を生み出し、JASRAC会長などを歴任した後、2021年に現職に就任されました。私達と共通する感覚をお持ちの文化庁長官の誕生と言っていいでしょう。それは「文化芸術に関わる全ての皆様へ」と題した一文(2021年5月、文化庁HPに発表)で「文化芸術活動は、断じて不要でもなければ不急でもありません」と明言されたことでも伝わってきます。文化庁の京都移転を前に、京都出身の中西健夫ACPC会長と語り合っていただき、話題は2025年の大阪・関西万博まで広がっていきます。
会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 30 都倉 俊一(第23代文化庁長官)
文化庁京都移転、大阪・関西万博開催
日本の音楽文化を世界へ発信するチャンスに
私達は何をするべきか
「アンチ東京」の意地 プロモーターへの思い
――文化庁の京都移転の狙いから、お話をお聞かせいただけますか。
都倉:安倍政権が地方創生を掲げて以来、中央省庁移転の案が何度か取りざたされていましたが、現実的な問題としては、なかなか難しかったわけです。今回、明治維新以来、初めて中央省庁が東京を離れることになりましたが、平たく言えば千年を超える伝統があり、平安京からの歴史がある京都に文化庁が移る、文化の中心が戻ることに誰も反対はできないだろうと(笑)。経済界においても京都に拠点を持つ企業はたくさんありますし、海外からの人気も高くインバウンドの中心地ですので、その存在は東京と同じくらい響いている、轟いている。日本の文化や芸術、そして歴史を発信していくには、これほど適した場所はありませんから。
とは言え、1968年に文化庁が発足して以来、現在に至る過程の中で機能的には動かせない部分も出てきています。 だから僕も週に1〜2回、東京と京都を日帰りで往復していますが、地元の伊吹文明先生(文部科学大臣などを歴任)が「文化庁長官が京都に住まわれること、それが文化庁の移転が完結する姿です」とおっしゃられていて……さあ、どうしましょうか(笑)。京都に住むことになっても、週に1〜2回の往復は続くのではないでしょうか。もちろん東京には戻らないという前提で移転するわけですから、 僕の任期は別にして、京都の皆さんには「これから本当に長いお付き合いになります」とご挨拶していますし、それが地元の方に一番喜んでもらえます。
中西:首都圏に機能が集中し過ぎているのは間違いないことですが、現実的にどこの省庁が動くのかとなった時、まさに文化庁が京都へ行くのが、すべての方にとって腑に落ちる話だと思います。我々も海外で仕事をしていると「京都へ行きたいんだけど……」という話が必ず出ますし、東京よりも世界から注目されている面も多いと思います。そんな京都に文化庁が根付いて、様々な日本文化を発信していく――これはジャストでベストな選択じゃないでしょうか。エンタテインメントを海外に向けてやっていく際に、京都でイベントをやるというだけで海外のアーティストも来てくれるはずですし、僕らも利用できることが多いはずです。そういう発想をいい意味であざとく実行していかないと、世界にはなかなか届かないと思いますね。
都倉:「京都発」が持つ意味を、京都の人達は意識していないと思うんです。「あ、そうでんなあ。そんなこと考えたこともおまへん」みたいな感覚が、これがまた我々から見ると魅力的なんです。逆に関東の人間である僕のような人間が、大変僭越ながら「大いなるメリットを感じています」ということを申し上げなくてはいけない。中西さんが考えていらっしゃる、京都の文化の蓄積を色々なイベントで使いたい、イベントを通じて世界へと発信したいという試みは、大いにやるべきでしょう。
文化庁では、京都をはじめ日本が持っている「侘び寂び」の感覚を表現するために、「WABI」という言葉を標語に使っているんです。これは「Worldwide Art Blossom Initiative」の略なのですが、経済産業省の標語「on the way to 25」と一体化させたロゴを2025年の大阪・関西万博に向けて使っていこうと思っています。