会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

失われた2年半、私達がやってきたこと
これからもやり続けなくてはいけないこと

収録日:2022年7月11日

2020年2月末以降、ライブ・エンタテインメント業界は、かつてない苦境に追い込まれました。全国のコンサートプロモーターが加盟するACPCでは、コロナ禍において様々な対策を講じることになり、その一端は、過去にアップされた記事「コロナ禍のライブ・エンタテインメント 2020-2021」「『大規模接種センター』措置によるライブ・エンタテインメントへの多大な影響」などでも振り返ることができます。苦境に立ち向かっていたのはACPCだけではありません。コンサートやフェスは、ステージに立つアーティストとアーティストを支えるスタッフがいなければ成り立ちませんし、そこで歌われ、演奏される楽曲も不可欠です。ライブ・エンタテインメントの危機とは、音楽に関わる「人と作品」すべての危機であり、乗り越えるためには音楽業界全体で走り出す必要がありました。音楽4団体はどのように足並みを揃え、具体的にどう動いたのか。再び感染者が増加する中で、どこへ向かおうとしているのか。各団体のトップが一堂に会して語り合いました。

出席者

  • 瀧藤雅朝日本音楽事業者協会会長
  • 野村達矢日本音楽制作者連盟理事長
  • 稲葉 豊日本音楽出版社協会会長
  • 中西健夫コンサートプロモーターズ協会会長
  • 取材・構成:君塚太/撮影:小山昭人(FACE)

危機を前に必要だったより深い連携
踏み込まざるを得なかった未知の領域

――ACPCの中西会長は、現職の在任期間を踏まえると、日本音楽事業者協会(以下、音事協)、日本音楽制作者連盟(以下、音制連)、日本音楽出版社協会(以下、MPA)との連携が本格化した当初から、結束が強くなっていく様々な場面すべてに立ち会われていたことになりますが、まずこれまでの経緯を振り返っていただけますでしょうか。

中西:4団体の連携がより深まったきっかけは、高額チケット転売問題です。音楽業界だけではなく、演劇やスポーツを含むオールジャパンで団結して、様々な啓蒙活動や国に対する交渉を続けた結果、チケット不正転売禁止法が成立(2018年12月)しました。もちろん、法律ができたことがゴールではなく、その後も各団体が力を合わせて、法律をより実効性のあるものにするための環境整備を続けていましたが、そんな中で新型コロナウイルスの問題が起きました。2020年2月26日の総理会見で、コンサートなどに行くことは「不要不急の外出」と見なされ、イベントの開催自粛が要請されました。さらに大阪のライブハウスでクラスターが発生し、ライブ・エンタテインメントがかつてない程の強いアゲインストにさらされることになってしまったんです。
当初、コロナ禍がどれくらい続くのか、全く分からなかったのですが、このままだと我々の業界が沈没してしまうんじゃないかという強い危機感がありました。3月17日には「新型コロナウイルスからライブ・エンタテインメントを守る超党派議員の会」が開かれて、党派の垣根を越えた議員の皆さんが集まり、我々も出席(当時の音事協・堀義貴会長、音制連・野村理事長、ACPC・中西会長、日本2.5次元ミュージカル協会・松田誠代表理事などが出席)して、公演中止の損失補填や再開に向けた施策などを訴えました。
今振り返ると、この時にできる限りのスピードで国に対して声を上げられたのは、チケット転売問題での経験があったからだと思います。音楽業界にいる我々は、それまで政治の世界とは接点を持たずにきていましたし、フラットな立場であり続けていました。それが過去にない危機を迎えて、足を踏み込まざるを得なくなり、議員会館や省庁に何度も行くようになりました。結果的に国による支援制度のJ-LODlive(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)という補助金制度が設けられることになりましたし、事業者側でも音事協、音制連、ACPCが発起人となって、フリーランスを含めたライブ・エンタテインメント従業者のための支援基金、Music Cross Aidを創設することもできました。ここに至るまでは本当に信じられないくらいの労力が必要でしたし、多くの方々のご協力もいただきました。そもそも公的な支援制度は、年間で枠組みが決まっていて、急に支出することなんてできないんですよ。それを日本のコンテンツを海外に発信することを目的としたクールジャパン関連予算から、なんとか予算を確保したわけです。業界全体で知恵を絞り、多くの政党や関係省庁の方が知恵を絞り、応援してくださって、ギリギリのところで成立した制度であり、それによりコロナ禍でも業界がかろうじて持ちこたえることができたというのが、この2年半の実情です。

――音制連の野村理事長は、現職に就任される以前から、チケット転売問題に取り組まれていたと思いますが、そもそも音制連とACPCの連携はどの時点で始まったのでしょうか。

野村:音制連とACPCは2016年の初頭から連絡会議を設けていました。音制連に加盟している各プロダクションのビジネスモデルが、それまでの音源ビジネスからライブビジネスにシフトして、ますます話し合うべき課題が増えてきたので、定期的にミーティングを行うようになったんです。当初は会場でのアルバイト不足、制作費や会場費について、コンサートの開催が土日に集中しすぎている問題などを話し合っていましたが、最も悪質であり、直近に解決すべき事案としてチケット転売問題がクローズアップされていきました。
エポックメイキングになったのは新聞広告を出したこと(2016年8月23日)だと思います。多くのアーティスト(116組)、音楽イベント(24イベント)、そして音楽業界団体(音事協、音制連、ACPC、コンピュータ・チケッティング協議会)が連名で新聞に広告を出し、モラルに訴えたんです。それが世の中に風を吹かせることにつながり、民意の後押しを受けて、立法化にまで辿り着きました。この時に我々は、業界全体で団結することがどれだけ大事で、課題を解決する大きな力になるかを実感したと思います。
この当時、ライブエンタメ業界は約6000億円の市場になっていましたけれど、6000億円の規模を持つ産業がどの程度の大きさなのかといったら、何もしなくても国に振り向いてもらえる規模ではないと思うんです。やっぱり声を出していかなきゃいけないし、行動に移さないといけない。コロナ禍のような危機が突然訪れて、沈没しそうになっている船の底にさらに穴が空き続けている状況ですから、自らが動いて穴を塞がなくてはいけないんです。場合によってはそれぞれの政治信条云々は関係なく、とにかくこの船に乗っている人達を助けなきゃいけない。そのためには2団体より3団体、3団体より4団体のほうが大きな力を生み出せます。チケット転売からコロナ禍へと、死活問題に立ち向かう中で、音事協、MPAの皆さんにも流れに加わっていただき、音楽業界という船が沈没しないように必死に走り回る日々でした。

伝わりにくい歌手の営業活動の損失
著作権管理の視点から見たコロナ禍

――音事協の瀧藤会長は就任された際、団体間の連携をどのようにお考えでしたか。

瀧藤:私は会長に就任して1年程になりますが、前会長の堀さんからチケット転売問題が起きた当時のことなどは聞いていましたし、さらにコロナ禍で各団体とのタッグが重要になってきていることも充分理解しています。これまでも世間の皆さんからエンタメの世界の危機になかなか目を向けてもらえなかった歴史もありますし、堀さんからの流れを引き継いで、やはり声を大にして言うべきことを言っていかなきゃいけないと実感しています。
コロナが引き起こした問題で、音事協にとって一番大きいのは、イベント出演による営業活動ができなくなったことじゃないかと思います。うちの加盟社では、コンサートだけではなく、演歌・歌謡曲の歌手の皆さんがスポンサーさんの営業活動の場で歌わせていただいたり、レコード店や飲食店で歌わせてもらってカセットやCDを手売りする機会も多いですが、そういった営業活動の場もコロナ禍で8割くらい減っていると思います。コンサートですと、チケットがいくらで、会場にどれくらいのお客さんが入ってと、中止になった場合の損失を算出することができますが、営業活動の場合は曖昧ですからね。J-LODliveの対象にもなりませんし、政府に被害状況が届きにくいんですよ。我々が政府の内閣官房コロナ室へ伺った時、政府では検討できるかもしれないが地方ではダメというケースが多かったですよね。知事が会場を貸さないとか、そもそも飲食店が営業できていないとか。

野村:各地の医師会も影響力ありますからね。

中西:地方では東京や他の地域からアーティストやスタッフが訪れたり、お客さんが集まること自体が嫌がられていました。ACPC加盟社が主催するフェスも同じ理由で中止に追い込まれた例がいくつもあったんです。

――ライブ・エンタテインメントへの関わりは、プロダクションの団体である音事協、音制連とはまた違った角度からになると思いますが、MPAの稲葉会長は団体間の連携について、どのようにお考えでしょうか。

稲葉:チケット転売問題の時、まだMPAは加わっていなかったんですけれども、コロナ禍に入ってお声がけをいただき、皆さんと足並みを揃えることになりました。
音楽出版社の構造として、著作権使用料の徴収に関してはJASRACやNexToneに委託をしているので、自分達で直接動くわけではありませんし、徴収された使用料が分配されるまで1年のズレ、つまりコロナが始まった2020年の段階では前年の徴収分が分配されるので、各社のインカムに大きな落ち込みがあるとは想定していなかったんですね。当然ながらコンサートでの演奏権使用料やカラオケからの収入が壊滅的な打撃を受けることは従前から予測はできたんですけれど、一方でインタラクティブ、YouTubeやストリーミングのサービスからの収入が、ここのところ前年比130%増くらいできていたので、それと行って来いになるくらいだと予測していたんです。実際に音楽出版社全体のコロナ期間のインカムは、1年目の2020年は、前年の分配留保分も含めて過去最高の分配額だったんです。次の年もそこから10%も落ちませんでした。
とはいえ、これは音楽出版社、もしくはMPAの特徴なんですが、著作権の管理業務だけをやっている社はそんなに多くないんです。会員社の構成を見ると、正会員、準会員を併せて現在349社、その中で音制連にも加盟している社が109社、音事協が47社、ACPCが12社あるんです。ちなみに日本レコード協会加盟社も35社あるので、1つの業態だけの社が集まっている団体ではないんです。著作権管理業務が堅調であっても、会員各社は他の業務で打撃を受けていますし、常日頃一緒にお仕事をしているパートナーの痛みも肌で感じています。ここ数年、コンサートは楽曲を広めていく大きなエンジンになっていますし、このエンジンが止まってしまったら、著作権や著作隣接権収入に対して多大な影響が出ることは間違いありませんので、私達が音楽業界団体の連携に参加させていただくのは当然だと考えています。

中西:業界全体がすでにボーダレスになっていますからね。

瀧藤:もう昔みたいな業態の壁はないに等しいでしょう。

中西:弊社も、各機能を担当するグループ会社がありますし、プロダクション、音楽出版社、プロモーター、制作会社といった区分けは、今後はさらに意味がなくなっていくでしょう。ボーダレスだからこそ全体で協力していかないとダメですし、4団体の協力関係はさらに強化していくべきだと思います。


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