撮影:宇都宮輝
「スポーツから生まれる感動とビジネス的な成功は両立できます」(髙田)
「スタジアムやアリーナについての新しい発想をぜひ貫いてください」(中西)
通信販売事業で全国的にも知名度が高いジャパネットホールディングスが、創業の地であり、現在も本社を置く長崎にスタジアムを建設する構想が発表されました。同社は2017年にサッカーJ2のV・ファーレン長崎をグループ会社化。建設予定のスタジアムはクラブの本拠地になりますが、特筆すべきは建設予定地である長崎・幸町工場跡地に誕生するのがスタジアムだけではなく、アリーナ、ホテル、オフィス、商業施設なども併設した「長崎スタジアムシティ」であるという点です。同社はこのプロジェクトを中心にスポーツ・地域創生事業を担うグループ会社、リージョナルクリエーション長崎を2019年6月に設立しており、通信販売事業と並ぶ柱にするべくプロジェクトの成功を目指しています。中西健夫ACPC会長は、これまでの連載対談でも「これからのスタジアムづくりは、スタジアム建設だけでなく、街づくりも視野に入れるのが理想」という旨の発言をしていますが、長崎で動き出した一大事業はコンサートプロモーターにとっても理想のプロジェクトになる可能性を秘めています。ジャパネットホールディングスの髙田旭人代表取締役社長 兼 CEOをゲストにお招きし、詳しくプロジェクトの構想を伺いました。
中西:僕はもともと、長崎という街に魅力を感じていたんです。今年のJ2のサッカーの開幕戦も、応援している横浜FCとV・ファーレン長崎の試合を、長崎開催という理由で観に行きました。残念ながら我がチームは負けましたが(笑)。そんな中で、いよいよ地元を盛り上げるための大きなプロジェクトに着手されるということで、髙田さんとも初めてお会いすることになって。
髙田:2019年6月のことでしたね。V・ファーレン長崎の試合があった時にお越しくださって、そのあとお食事もさせていただきました。以降、中西さんには本当に色々と相談に乗っていただいています。
中西:我々ACPCは全国に会員社がありまして、常に全国規模で物事を考えていく必要があるのですが、その一方で、会員社の売上全体の50%以上を関東圏だけで占めているという現実もあります。そうなるとアーティストにとっては首都圏を回っていれば利益が出ることになり、さらに関東圏ではアリーナの建設が進み環境も整ってくる。つまり、現実的には今後も首都圏中心にならざるを得ない流れがあるのですが、このままでいいのか?という根本的な問題を考えなくてはいけないのも事実です。
髙田:地方も含め、新しくつくられるスタジアムやアリーナ施設はどうあるべきか、音楽業界の皆さんは問題意識をお持ちで、スポーツ業界も同様です。それがECSAの設立につながったのだと思いますが、私達のような地方に拠点を持つ企業も、地域創生の観点から同じ問題意識を持っています。皆が同じ方向に向きはじめた今、共通の解決策が生まれるんじゃないかと予感していて、そういう仮説の上で中西さんともお話をすると、やはり同じ方向に進んでいることが実感できて、自分達のプロジェクトへの取り組みもよりスピードが上がる感覚があります。
中西:業界を越えた共通の問題意識がある一方で、感覚的な違いもやはりあります。スポーツの世界は体育教育に根ざした考え方がベースにあって、ショービジネス的な発想が出てくると嫌がる方も多いですよね。そこをなんとか変えていきたいと思っています。
髙田:確かにスポーツの世界では、経済的な合理性に照らし合わせることをネガティブに捉えがちで、変化を望まない傾向がありますね。スポーツから企業が収益を上げることに否定的な文化があるのは残念です。収益を得ることで持続性が出てきますし、地域の良さもきちんと伝えられて、地元に人を呼び込むことにもつながるわけですから、そこは変えていきたいと思っています。
中西:すごくよく分かります。企業として当たり前の姿勢のはずが、どこか悪みたいに思われてしまいますよね。理想を掲げるのはいいけれど、結局のところ、じゃあ誰が出資するんだという話になってしまいます。
髙田:私は、スポーツから生まれる感動とビジネス的な成功は絶対に両立できると信じています。自分達が正しいと思うことを追求するために、自治体にお金を出していただくわけにはいかないので、今回のプロジェクトは私達がリスクをとって出資することからスタートしたんです。
中西:パナソニックスタジアム吹田は企業がベースとなり、地域から寄付を募って建設されましたが、今回の長崎のような形は民間でも初めてだと思います。
髙田:今回のプロジェクトは「長崎スタジアムシティプロジェクト」と呼んでいますが、スタジアムを中心とした周辺の部分では、インフラ整備を含めて自治体といい形で情報共有をさせていただいていますし、それこそ中西さんをはじめ素晴らしい皆さんに応援していただいているので、責任の重さも感じています。