会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

希望と失望が交差する現状と音楽文化保護育成委員会

ライブ・エンタテインメントの未来のために 私たちが考えるべきこと、やるべきこと

撮影:宇都宮輝(鋤田事務所)

「現在のシニア層がさらに歳を重ねた時に、 観たいコンサートがあるのか想像できないんです」(堀)
「シニア層に向けて、20年後も視野に入れたライブを、 僕らがつくっていかなきゃいけないですね」(中西)

ACPCが実施している「ライブ・エンタテインメント市場調査」のデータを見ても分かるように、全国の会員社が取り扱っているライブのうち、多数を占めている音楽ジャンルは「ロック・ポップス」です。この調査結果には、フォーク、ロック、ニューミュージックの勃興とともに立ち上がった会社が多いというバックグラウンドも影響していますが、近年はアイドルやアニソンから、シニア層に根強い人気がある演歌まで、年々取り扱う音楽が広がってきていることも事実です。さらには演劇や演芸、ゲーム/飲食関連イベントといった、全く別ジャンルのエンタテインメントを手がける機会もあることでしょう。
中西健夫ACPC会長の連載対談、新年号のゲストとしてお招きしたのは、日本音楽事業者協会の会長であり、ホリプロ代表取締役社長の堀義貴さんです。堀さんは、多様なライブ・エンタテインメントをボーダレスで語れるという点で、業界随一の「論客」だといえるでしょう。ACPC寄附講座の講師としても、その総合的かつ鋭い分析を披露してくださっていますが、今回の対談でも様々なライブの問題点を中西会長とともに語り合い、多ジャンル時代のコンサートプロモーターへのヒントをくださいました。

堀:ライブ・エンタテインメント全体のデータを見れば、売上などは確実に上がっていますよね。特にコンサートについては順調だと思います。一方で、順調な推移の背後では、音楽産業の中でのライブの位置づけが変化してきています。
もともとライブは、どちらかというとCDをプロモーションするための手段の一つでした。アーティストはアルバム・リリースのタイミングで全国ツアーに出て、地方局の番組にも出演していました。楽曲もオンエアされ、小売店ではCDがディスプレイされる……つまり、アーティストにとってライブとは、コンサート会場の中の出来事ではなく、プロモーション全体の流れの中で位置づけられていたわけです。だからレコード会社から経済的な支援もありましたし、ライブ自体は赤字でもいいんだという感覚がありました。それがご承知の通り、CDパッケージの売上が年々下がってきて、配信ではとても補えない状況になってしまった。音楽産業に携わる事業者は、ライブで稼ぐしかない、コストをカットして利益を出さなきゃいけないのが現状だと思います。

中西:希望と失望が交差していますよね。いくらライブの売上が伸びているといっても、CDが100万枚や200万枚売れていた時代に比べると、分母が小さくなってしまうというか、若いアーティストが成功への夢を持てなくなります。音楽を続けていて、自分は食べていけるのだろうかと不安になってしまう。そうなると魅力がない業界になってしまって、優秀な人材が集まらない。新しい才能が集まらない業界には絶対してはいけないと強く感じます。

堀:数字の上では明るい未来を想像できるはずなのに、コンサートについても不安が残ってしまいますよね。例えば20年、30年前であれば、テレビもラジオも、CDもコンサートも、メインのターゲットは10代、20代でした。それが現在は大きく変化して、圧倒的に違うのは市場の少子高齢化です。ラジオは完全に高齢者中心のメディアになったし、テレビも50代がメインの視聴者になりつつあります。コンサートを支えているのもシニア層です。でも、その層がさらに歳を重ねて、70代になった時に、果たして観たいと思えるコンサートがあるのか。あるいは今20代の人たちが、20年後に「いやあ、懐かしいねえ」と楽しめるコンテンツはどんなものなのか。全く想像できないんですよ。
コンサートだけではなく、弊社が手がけている演劇の舞台なども、やはり観客層が高齢化しています。ロックなどのコンサートとの違いは、完全に女性が中心で、客席の8割が女性です。10年前だと、女性同士の2人組、3人組のお客様が多かったのですが、今は1人で足を運ばれる方が多い。海外では男女半々の場合がほとんどですから、男女比の偏りは日本独特だといっていいでしょう。この男性が文化にお金を払わない状況も、不安材料の一つだと思います。

中西:シニア層に向けて、10年後、20年後も視野に入れたライブを、僕らがつくっていかなきゃいけないですよね。男性に文化や音楽への興味をもう一度持ってもらうという意味では、ポイントになるのはラジオじゃないでしょうか。ラジオ各局がまとまって、青春時代にラジオを聴いていた世代をライブに向かわせることはできると思います。ラジオのリスナー独特の連帯感をうまく利用して。なんというか……お父さん世代の男性って、文化に理解がないというより、奥さんとコンサートに行くのが恥ずかしいとか、ヘンな照れとか見栄があるじゃないですか(笑)。それを一回取っ払うことを、ぜひやりたいですね。それと土日ばかりにライブが集中している現状を早く改善して、リタイアしている人が平日にライブに行けるような環境を整備することも大事になってくると思います。

堀:世代を超えて受け継がれていくコンテンツは、現時点でもあると思うんです。例えば宝塚の舞台でも、スタジオジブリの映画でも、3世代が普通に楽しんでいますよね。
中西 音楽でいえば、ビートルズは4世代目に突入しつつあるわけですから、日本のアーティストにもできるはずです。そのためには、昔の曲を大事にする姿勢も必要だと思います。自分の力で新曲をつくり続けることへのこだわりも大事ですが、そう簡単に新しい音楽で、しかも大ヒットする曲が生み出せるわけではないですから。

堀:音事協内に、通称で演歌・歌謡曲委員会と呼んでいる音楽文化保護育成委員会を立ち上げたのですが、まさにこの組織の役割が演歌や歌謡曲を活性化させることです。演歌のコンサートの観客の方々は、本当に高齢化していますので、大きな会場だと階段も多いですし、なかなか開演時間までにお客様が客席に辿り着けなかったり、トイレの問題があったりと色々な問題が起きてきます。そうなると皆さん会場に足を運ぶのが億劫になったり、楽曲に触れることが面倒になってしまう。だからなんとか我々が周辺の環境を改善したり、音楽が聴きやすい新たなデバイスを用意することを目指したいと思っています。作詞・作曲家や歌手の方々、レコード会社の皆さんにもぜひ、ご協力をお願いしたいですね。新しいアーティストがデビューしやすくすることも大切ですし、少しでも若いリスナーに興味を持っていただくことも必要です。音楽文化保護育成委員会はまだできたばかりの組織ですので、何ができるかは未知数なところもありますが、長い目で取り組んでいきたいと思います。


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