撮影:宇都宮輝(鋤田事務所)
「これまで各社が独立したビジネスを行ってきましたが、もう少し連動するべきですよね」
「レコチョクで音楽と出会うことで、コンサートに行く機会が広がっていけば理想的です」
コンサートプロモーターと音楽配信会社。ライブ・エンタテインメントとデジタル・コンテンツ。既存の業態の枠組みを考えれば、両者が深く結びつく必要はないように思われますが、現在の音楽市場の多様化を踏まえれば、互いに連動することで新しい何かが生み出せるのかも知れません。中西健夫ACPC会長の連載対談第3回は、そんなことを予感させる内容になりました。ゲストとしてご登場いただいたのは、社名に由来が残るように「レコード会社直営」の音楽配信会社、レコチョクの代表執行役社長・加藤裕一さん。「着うた」を中心としたダウンロード販売のビジネスから、eコマースや定額制聴き放題サービスへと事業の幅を広げつつあるレコチョクと、コンサートプロモーターがリンクすべきポイントを探ります。
中西:加藤さんとは、食事をご一緒させていただく機会が多いですよね。この間もよく行かれているというマル秘の洋食の出る居酒屋に誘ってくださって、ありがとうございました。あのメンチコロッケの味には感動しました。僕らはお子様向けの味が好きなところが共通していて(笑)、美味しいと感じるメニューがだいたい同じですよね。
加藤:確かにそうです。高級レストランより、アラカルトで我儘のきく店が好きで、よく情報交換させていただいています。中西さんにお店へ連れて行ってもらうと、必ず感動して、その後も通うようになってしまっています。こちらこそ、いつもありがとうございます(笑)。
中西:お店の情報交換をしているときりがないですが、今日はグルメ雑誌の取材ではなく、ACPCの会報誌ですので、仕事の話を中心にお伺いさせてください。
加藤:こうして昼間にお会いすると、ちょっと照れくさいですね。いつも食事の前の5分間くらいしか、仕事の話をしていないですから(笑)。
中西:ご存知の通り、現在の音楽産業では様々な変化が起きていて、簡単にいえばCDが売れなくなって、コンサートの動員や売上は伸びているわけですが、音楽配信のマーケットも大きく変化していますよね。
加藤:日本の音楽配信市場は、海外とは異なり、モバイル向けの着うたが中心となって一気に伸びたわけです。パソコン向けの配信との比率は9対1くらいでしたから、本当に特殊な市場だったわけです。それがスマートフォンの登場により、いわゆるガラケーのユーザーが一気に減り、また、PCとの垣根がなくなり、音楽配信におきましても、まさにターニングポイントを迎えています。特に、ピークだった2009年には、900億円を超える市場規模でしたが、そこから毎年、徐々に縮小していき、昨年は540億まで落ち込み、今後の市場形成が課題です。
中西:CD市場が縮小して、音楽配信が頭打ちになったとしても、音楽を中心としたエンタテインメント全体で合算したら、僕はそんなにユーザーの数は減っていないと思うんです。音楽を楽しむツールが進化したり、趣味嗜好が多様化しているだけで。そういった状況に対応するために、これまでは音楽配信会社もコンサートプロモーターも、業態によって独立した形でビジネスを行ってきましたが、もう少し連動することを考えるべきじゃないかと思っています。アーティストのマネージメントの方々も含めて、例えばライブ音源の配信など、距離を縮めてお話できるといいですよね。
加藤:はい。全く違和感ないですね。弊社のプラットフォームを訪れてくださるお客様は、実際に購入につながるかは別にして、年間4700万人くらいいらっしゃるんです。そのお客様に対して僕らが担うべき役割は、カジュアルに音楽と出会う機会をつくることだと思っています。レコチョクで音楽と出会うことで、お客様がパッケージを買ったり、コンサートに行く機会が広がっていけば理想的です。音楽を大好きになってもらうための、ユーザー・チェーンの最初の窓口みたいなものですね。
とはいえ、現実的にはここ数年で、音楽に時間とお金が使われづらくなっていることは確かだと思います。着うたの全盛期と比べて、弊社で扱っている楽曲を気軽に買っていただくお客様が減っていることも事実です。もちろん他の音楽配信サイトで探している、もしくは無料のコンテンツだけを楽しんでいる方もいると思いますが、そもそも音楽と出会い、好きになっていただく機会が少なくなっているとすると、それは僕らの努力不足だとも思います。ユーザーと音楽の接点をどう増やしていくかが、我々の最大のテーマなんです。