会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

「団結」から「継承」へ

村松俊亮
PROFILE むらまつ・しゅんすけ
1963年生まれ。87年、CBS・ソニーグループ(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。2002年、ソニー・ミュージックレコーズ代表取締役執行役員専務、2005年、同執行役員社長、2013年、ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブ レーベルビジネスグループ代表、2019年、同社代表取締役社長 COOなどを歴任。2020年より現職。現在、ソニーグループ上席事業役員 音楽事業担当(国内)も兼任。日本レコード協会では2015年より理事、2016年より副会長、2021年に会長就任。現職は他にソニー音楽財団評議員、日本経済団体連合会クリエイティブエコノミー委員長、コンテンツ産業官民協議会委員など。

中西:これまでの歴史を考えると、今、音楽5団体が一致団結していること自体、本当に素晴らしいと思いますし、ある意味信じられないというか(笑)。

村松:過去にはなかったことですからね(笑)。それが今では月に1回、各団体の長と専務理事が一堂に介して、ああだこうだとブレインストーミングをしているわけです。侃侃諤諤にはなるのですが、全員がこのアワード開催の必然性を感じながら、ポジティブな意見を出し合っています。それだけで高揚感がありますし、単純に楽しいですよね。

中西:時代の要請もありますよね。ソニーさんはもちろんですが、我々コンサートプロモーターも、プロダクションの機能もあれば、制作会社でもある社が増えています。レコード会社やプロダクション、プロモーターがお互いの職域を限定している時代ではなくなってきています。業態は関係なく、一つの作品、一人のアーティストを売っていくために、最高のチームが集まればいいわけで、完全にボーダレスになってきたと思います。

村松:スーパースターが登場するとか、世界的なヒット曲が出ることで、産業自体が広がっていくじゃないですか。大谷翔平選手の活躍を見れば分かりますが、音楽業界の今日的な課題はそこにあると思うんですよ。我々が世界に誇るスーパースターや大ヒット曲をつくれる可能性が広がってきていて、そのためには音楽5団体が運命共同体になる必要があり、それぞれの会社の組み合わせのパターンは違えど、何かしら各社が関わっていく時代に入ったのだと思います。「ヒットをつくる」という共通の目標のもとに、それぞれが得意なファンクションを担っていくという、実はシンプルな話なのだと思います。

中西:明るい話題だけではなく、今年は能登半島地震もありましたし、豪雨で各地が大変な被害を受けています。コンサートの開催にも大きな影響がありますが、音楽やスポーツはそんな落ち込むことが多い日々の中で、生きるモチベーションを生み出していく産業だと思いますので、大谷翔平選手のように希望の光を届けることをやらなくてはいけないですよね。

村松:それともう一つ大事なのは、音楽5団体がアワードをやるというと、トップダウンな感じがするかもしれないですけれど、これはボトムアップでしか成功しないアワードなんです。

中西:いい意味の喧々囂々はいいんですが、「どうせおっさん達がやっているアワードだろ」と言われると、僕らも心が折れまくります。若い人達にはどんどん参加して、意見を出してほしいですが、心は折らないでください(笑)。

村松:「どうせ」という言葉は禁句でお願いしたいですね(笑)。MUSIC AWARDS JAPANは既視感のない、全く新しいアワードにしなくてはいけないんです。僕らおっさんだけでは難しい面もあるので、将来の音楽業界を背負っていくような、才能溢れる若いスタッフにどんどん引き継いでいきたいと思っています。

産業としての成長と法整備

村松:生で音楽を聴くライブやコンサートが、日本国内はもちろん世界でもさらに広がっていってほしいですし、弊社でもライブ関連のビジネスに力を入れています。ここ数年はライブハウスのZeppをアジアでも展開していますが、まだまだ発展途上なので、Zeppに限らず日本のアーティストがアジアでツアーを組めるようなインフラをつくる夢を持っています。僕は経団連(日本経済団体連合会)でクリエイティブエコノミー委員会の委員長を務めていたり、コンテンツ産業官民協議会にも委員参加していますが、音楽をはじめとした日本のコンテンツがどれだけ世界で認められているか、世界の人々を熱狂させているかを伝え、エンタテインメントを国の基幹産業とするべきだと訴えています。アニメとアーティストをセットにしてアジア、北米をツアーで回ることも可能だと思いますし、最初はなかなかマネタイズできなくても、国のサポートがあれば、まず現地の人にライブ体験を通じて日本の音楽を認知してもらい、バズを広げていく流れをつくれる。やはり生で日本のアーティストを体験してもらうのが、一番説得力もあるんじゃないでしょうか。

中西:他の産業を含めた話になると、音楽業界の人達は遠い話だと考えがちだと思いますが、村松さんが尽力されていることは、リアルに今やらなきゃいけない課題ですよね。韓国はすでにコンテンツ産業の年間利益が家電や自動車よりも上にいっていますが、日本でも音楽やドラマ、映画で世界的な大ヒットが一つ生まれたら様変わりすると思うんですよ。

村松:経団連や経済産業省と連携しながらやるものは当然、経済の話なので経済効率性、要するにお金が儲かるエンタテインメント・コンテンツ、世界からマネタイズできるものに特化してプランニングしていかなくてはいけないんです。現状ではゲーム、アニメ、マンガ・出版、実写(映画・ドラマ)、音楽、この5つを支援していきましょうと提言しています。データ的な裏付けもしっかり提出していて、エンタメは半導体や鉄鋼の分野と売上は同規模で、自動車産業に次ぐくらいの産業になっているんですよ。しかも伸び代が大いにあるというところで、我々民間のほうからどんどんアピールしていきたいと思っています。
それともう一つ、海外で日本の音楽が聴かれるようになったことに合わせて、法整備も進めていかなくてはいけないと考えています。我々レコード協会は10数年来、著作隣接権者(レコード製作者・実演家)がレコード演奏・伝達権を獲得できるように活動してきました。例えば、店舗や商業施設など街頭でCDや配信楽曲を再生しても、著作隣接権者は対価の還元を受けることができないんです。日本で著作隣接権者に対するレコード演奏・伝達権が立法化されていない以上、海外の店舗・商業施設でどんなに日本の音楽が使われても権利収入につながらないんですよ。レコード演奏・伝達権はラジオ人気が根強い北米以外、世界142ヶ国で導入されていて、中国や韓国、シンガポールでも成立しているにもかかわらず。世界の国々からも日本での導入を要請する声が高まっているんです。

中西:ライブ・エンタテインメント業界では、チケットの高額転売問題の時に新法を成立させるまで大変な苦労があり、関係各所のご協力をいただきましたが、現実に起きていることと法の整備が乖離してしまうのは本当に良くないですよね。今日はお忙しいところありがとうございました。


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