中西:小林さんが総合プロデューサーを務める木更津のKURKKU FIELDSでは、ACPCの人材育成研修会を行わせていただきました。KURKKU FIELDSはどんな思いで立ち上げられたのでしょう。
小林:ap bankやap bank fesで生まれた思いの実践の場としてKURKKUは構想されたんです。2008年にリーマンショックがあった当時、環境問題の中でも食に対する興味、より健康的に自分の身体を整えていこうというオーガニックへの関心も高まっていて、最初は都内でセレクトショップ的な展開から始めました。でも、働く人々がどんどんリストラされていく世相でもあったので、「この野菜は無農薬で健康的ですよ」とか言っても、激安ショップのインパクトには勝てなかった(笑)。そうなるとこちらはポップ・ミュージックの人間ですから、頭でっかちな理論だけではなく、お客さんに届ける方法を考えるわけですよ。もともとはスタジオにこもって、太陽光に触れない生活をしていたわけですが(笑)、水泳やシュノーケル、スキューバダイビングをやってみると、太陽光がもたらす循環や命の源たる海とともに暮らす生活の豊かさが分かってくるわけです。太陽の存在の大きさとか、僕らの体内にも微生物がいて土の中とつながっていることも勉強して、そういうことを実感できる場づくりを思い立ったわけです。
KURKKUというのは、フィンランド語でキュウリという意味なんです。Bank Bandで最初のアルバムを出した時(2004年『沿志奏逢』)に、アート・ディレクターの佐藤可士和くんがジャケットを、アンディ・ウォーホルのバナナへのオマージュを含めてキュウリが花を咲かせるデザインにしてくれました。Bank Bandで出すCDは、自分達のクリエイティブな欲求を満たすためじゃなくて、社会をつないでいくモチベーションでつくっているものなので、その価値観の逆転を表現しているんです。ウォーホルの場合は、商業ベースのポスターもアートにもなり得ることを表現したわけで、同じく価値観の逆転を表現しているんですね。それでKURKKUという名称を使っていこうということになり、ネーミングがKURKKU FIELDSになりました。
中西:初めて行った時、あまりに広くて驚きましたが(笑)、僕はACPCの全国会員社の皆さんに、あの場を体験してもらいたかったんです。木更津は東京からは近いですが、全国からとなるとなかなか足を延ばす機会はないですからね。KURKKU FIELDSでの研修会に参加した人に聞くと、反応はとてもよかったです。
小林:確かにあれだけ広いと驚きますよね。「こうやって楽しんでください」とマニュアルを細かくつくろうと思えばつくれるんですが、僕はいい感じでさまよってもらいたいと思っているんです。
中西:色々なエリアで小林さんの音楽と出会えるので、楽しいさまよいですよ。
小林:音楽もそうですけど、もっと抽象的な思いを表現するようなクリエイティブに出会ってほしかったんです。現代アートには特にそういう側面があると思いますが、人間にはまだまだ預かり知らない領域が、実は山のようにあることが、なんとなく伝わると思うんですよね。人間にはしょうもないところもあるけれど、進化もしている。未来がどうなるかは分からないけれど、色々な問題も乗り越えていくことはできるんじゃないかという希望を伝えたいんです。
だって不思議だと思いませんか? 人間が宇宙や地球のことをすべて把握するなんて絶対不可能なんです。でも、徐々に進化していって、事実に近づいていっていることも確かなんです。あまりに漠然としているけれど、希望はある。その微妙な感じをアートから感じてもらえればと思っています。
中西:最後にap bankの今後の活動を少しだけでも教えていただければ。
小林:ひと言だけいうと、太陽光など環境のことを感じるには自然の中で開催するほうが分かりやすい面もあるので、今までずっと地方でやってきましたが、都市でもできないだろうかと考えています。気候の変動を都市でも感じられるようになっているし、世界情勢がより複雑になって、多数の問題がそう簡単に平和に向かって解決できるような状況にはないということもあります。そんな中では都市から発信したほうが、色々な可能性を試せるといいますか、伝えるためのツールがたくさんあるじゃないですか。都市自体が一つの展示場みたいな面もありますし。
中西:地方からの発信もとても重要ですが、都市で未来を考えることにも大きな意味があると思います。ap bank fesに足を運ぶことによって、特に環境問題や社会情勢に関心がない人でも気づきというか、感じることが生まれますからね。何か呼び起こすきっかけになるといいなと強く思います。今日はありがとうございました。