――国家戦略としての文化芸術の輸出を推進する場合、事業者側も変わらなくてはいけない面が出てくるのでしょうか。

PROFILE とくら・しゅんいち
第23代文化庁長官。1948年、東京都生まれ。作曲家として山本リンダ「どうにもとまらない」(72年)、山口百恵「ひと夏の経験」(74年)、ピンクレディー「ペッパー警部」「ウォンテッド(指名手配)」「UFO」「サウスポー」(76〜78年)、狩人「あずさ2号」(77年)など大ヒット曲を量産。77年より、日本音楽著作権協会評議員、同理事、日本作編曲家協会理事、同常務理事など歴任し、2010年に日本音楽著作権協会会長に就任。その後も文化審議会委員、国際音楽創作者評議会執行委員、日本音楽著作権協会特別顧問、アジア・太平洋音楽創作者連盟執行委員会会長など要職を務める。2018年、文化功労者受章。2021年4月より現職。
都倉:韓国にあって、日本にはないもの、それはロードマップなんです。戦略的なロードマップと人材育成。これを国家がやらなくては、絶対に追いつけない。もうすでに追いつけないかもしれないですが、いつまでもスタートを切らないわけにはいかない。スタートを切るためには、既成のエンタテインメント界だけではダメなんです。僕もそこにいたわけですけれど、これからは未来志向で行かなくては。
これまでの日本のエンタテインメント界は、一国一城の主はたくさんいましたが、バラバラだったと思うんですよ。今は中西さんのような立場の方がいて、業界がまとまりつつある。やはり民間だけでは限界がありますので、国もジョイントできる環境が整いつつあることは大きいと思います。世界戦略のためのネットワークづくりは、民間だけでは難しいと思います。
中西さん達とお話ししているのは、拠点づくりです。まずはアジアへ向けての拠点。K-POPが日本をはるかに追い越していたとしても、悠久の昔からの文化の国・日本に対しての憧れは、やはり根強いわけです。憧れの対象になり得る国としてのブランドがあるからこそ、日本には4千万人、5千万人のインバウンドが来るわけです。日本で開催されているフェスにも、アジアの方々は憧れの目を向けている。そこでクリエイティブマンの清水(直樹)社長にご相談して、サマーソニックと文化庁の共催で「Music Loves Art in Summer Sonic 2022」(サマーソニック東京会場で開催された大型アート作品展)を行いました。これは日本の現代アートを音楽とともに世界へ紹介するグローバル・プロジェクトですが、今後はできればフジロックにも参加していただきたいと思っています。さらには音事協(日本音楽事業者協会)、音制連(日本音楽制作者連盟)、MPA(日本音楽出版社協会)などにも加わっていただき、国家戦略としてのCBX(Culture Business Transformation)プロジェクトを進めていきたいと思っています。
中西:日本という国は、フェスをつくり上げていく能力が傑出していると思います。海外でもサマソニとフジロックの名は必ず挙がりますので、我々もライブ・エンタテインメントを携わる人間として誇りに思います。今回のサマーソニックでの試みは、アートというキーワードが加わったことによって、世界に向けての広がりがより出てきたんじゃないでしょうか。これからはアートだけでなく、食も取り入れると日本文化の特色をさらにアピールできると思います。アートもイートも全部載せて。ジョークではありませんが(笑)。
都倉:そうですね。昔は食といえば、すべて農林水産省だったのですが、食文化担当の組織が文化庁に設置されました。確かに和食はユネスコ無形文化遺産に登録されていることからも、大事な日本文化ですよ。
中西:都倉長官が就任されて、色々なことにリアリティが出てきました。文化というと、日本人にとって距離が遠い感覚があると思いますが、エンタテインメントというと、グッと近づく感じがしますよね、その言葉のあやと言いますか、ギャップを埋められるのは都倉長官しかおられないと思っています。