会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

ウィズ・コロナ、アフター・コロナの
デジタルとグローバル

――コンサートの開催についてではなく、各社の日々のビジネス環境で変化したことはありますか。

野村:コロナ禍でリモートワークが推奨されるようになり、ツールとして思った以上に使えると感じた場面はあったと思います。ZoomやGoogle Meetでの会議だけではなく、もともと使っていたLINEのグループでの会話や、Slack、グーグルワークスペースなどの活用で仕事のやり方が変わった面もあったでしょう。音源や動画のやり取りもずいぶん楽になりましたし、コストダウンや効率化にはつながっていると思います。
ただし、歪みも出てきているなと思うのは、人と人のコミュニケーションですよね。特にクリエイティブに関わる人間にとっては、リアルなコミュニケーションは非常に大切じゃないですか。スタッフ同士のコミュニケーションもそうですし、アーティストとのコミュニケーションももちろんそうです。例えば現場のスタッフに何か物事を頼むにしても、人間関係ができていて、顔を合わせて説明すれば、多少厳しい案件でも実行してもらえるのですが、リモートのみでやり取りをしているとハレーションが起きやすい。実際に会って話し合う場が失われていくと、実はかなり仕事の上でのマイナス面が出てくると思います。

稲葉:マイクロソフト社が行った、全社員に対してのワールドワイドなアンケートで「リモートでパフォーマンスが上がるのは、もともと知っている人間同士のコミュニケーション」との結果が出たそうです。結局、知らない同士がリモートをやっても、あんまり成果は上がらないようですね。
自分の仕事についてお話すると、実は著作権の管理業務って、本当にデジタル化されていないんですよ。いまだに紙ベースが多いんです。JASRACに対しての作品届けもいまだに紙が多いですし、作家の方々との契約も紙ベースのウェイトが高いです。これはコロナの直接的な影響ではないのですが、MPAでも会員社全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)化、デジタル化を進めていくためのプロジェクトを立ち上げました。電子契約書の導入などやるべきことはたくさんありますが、それが進まないと各出版社の担当者がフルリモートにならないんです。

瀧藤:うちも大変ですよ。デジタル化が進んできた業務もあるとはいえ、まだまだ昭和な部分が残っていますから(笑)。

中西:コンサート関連だと、コロナがなかったら電子チケットはここまで普及しなかったかもしれません。

野村:4団体の連携についても、グローバルとデジタルは外せないテーマだと思います。日本の音楽業界が1つになって世界で闘っていくためには、コストダウンをして各社がコロナ禍で生き残っていくことも必要ですから。著作権管理のDX化は、利用者にも権利者にもメリットがあるわけで、MPAの皆さんだけの課題ではないと思いますね。

稲葉:CDの時代に比べて、ストリーミングサービスのグローバルなプラットフォームが広がってきているので、音源ビジネスのチャンスは増えていると思いますが、JASRACが取り扱っている1100~1200億の徴収・分配額のうち、海外からの入金はまだ増やす余地があると思います。これは日本のアーティストの楽曲が聴かれていないわけではなく、使用料を取りこぼしている部分も大きいんです。日本での徴収のカバー率と、海外でのカバー率は雲泥の差です。MPAとしては、そこを解決していかなくてはいけないと強く思っています。

中西:それとグローバルを目指す時に、戦略として音楽だけではなく、他の産業と一緒に組んでやっていくことも大事ではないでしょうか。日本食は世界のブランドになっていますし、ファッションもアニメも映画もあります。この10年、日本文化のポテンシャルは上がっていると思うんですよ。韓国からBTSが登場したことに驚いているだけではなくて、僕らに何ができるかを考えなくてはダメなんです。アーティストも生み出さなくてはいけないし、インフラも整備しなくてはいけない。それは1社ではできないので、やはり業界全体で取り組むべきだと思いますね。

働き方改革からアルバイト不足まで
エンタメ界独特の労務問題へ上げるべき声

中西:ACPCで問題になっていることを、皆さんとも考えたいのですが、ここ数年、コンサート会場でのアルバイトが不足していて大変困っているんです。時給を上げればアルバイトが集まるわけじゃないんですよ。最近の若い人達は、とにかくお金を稼ぎたいと思っているわけではなくて、時給を上げたら週4日バイトを入れていたのが3日になる人もいます。一定のお金があれば、これでいいと思ってしまうらしくて。それと原因を色々と調べてみたら、実は親の扶養家族でいられる収入の上限に引っかかるようなんですね。子の年収が103万円を超えると、親の扶養家族ではなくなり、確定申告をしなくてはいけなくなる。だから「100万円稼いだら、もう働きません」となってしまうんです。

瀧藤:103万円って、それはいつの時代の話だ、という感じですね。ずっとその上限は引き上げられていないんですか。

中西:そうなんですよ。だから11月、12月が一番バイトの集まりにくい時期になってしまうんです。上限が近づいているから、もう働かなくていいと思ってしまうようですね。これは飲食業でも同じだと思いますが、本当にいつの時代から変わっていないんだとアピールしなくてはいけないと思っています。ただでさえ少子化でバイトが集まらない状況なのに、ネックとなっているのは税務上の問題なんです。たとえ賃金を上げても働かなくなる、国の制度が働く意欲を削いでいるわけですから、これはもうおかしな話ですよね。

野村:いや、そんなことがネックになっているとは知りませんでした。

瀧藤:結局、エンタメの現場のことを理解していただけていないんですよね。働き方改革についても、もちろんそれが必要な業種もあると思いますが、画一的にエンタメ界に当てはめようとしても、現場の人間からすると違和感があるんです。個人事業主であるタレントの労働時間を他の職業と同じように制限するのは難しいですし、そのタレントとともに仕事をするマネージャーはどうすればいいんだという話になってしまいます。マネージャーは途中交代制なんてできないですからね。俳優は1ヵ月間ドラマの撮影をして、次の月は休むといった特殊なサイクルで働いていますので、職業によって柔軟性を持たせないと、せっかくの改革が現実離れしたものになってしまうと思います。

中西:働き方改革もそうですが、他の業種からも意外と知られていない盲点みたいなことが、まだまだあるんですよ。業界全体が1つにまとまって、政府や省庁に働きかけ、やらなくてはいけないことがたくさんあるので、立ち止まってはいられないですからね。まさに今、感染が拡大して内閣官房コロナ室、経産省とも密な関係が必要となり、政府への働きかけが重要となっています。また、文化庁が京都へ移転する事も決まり、エンタメ界の次の未来を考えるタイミングでもあります。まだまだ音楽業界が一丸となってやることだらけです!


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