村井:音楽業界の皆さんから学びたいと思っているのは、コンサート当日を中心に、その前後を含めた一連のストーリーづくり、物語性を意識した演出的な手腕です。私たちは競技団体なので、どうしても勝つか負けるかに意識がいきがちで、優勝争いに関わらないと集客も苦戦することがあるんですよ。本当は、1人ひとりの選手がプロサッカー選手になるまでには様々なドラマがあるわけですから、背後にあるストーリー性をもっと打ち出していくような努力をするべきであり、それがJリーグの発展にもつながると思います。
中西:こちらは逆に、スポーツの勝ち負けが決まるところがうらやましいです。たまにあるんですよ、ライブを観ていて、引き分けの試合を見たような気分になることが(笑)。何より音楽業界がスポーツ界に学ばなければいけないのは、地域密着の姿勢ですね。今、Jリーグが55クラブあって、それぞれ全国で地域に根差した運営をされている点は本当に素晴らしいと思います。コンサートについては、会場のインフラが関東に集中していることもあって、首都圏中心になりすぎているんですよ。ACPC調査による昨年の売上高で言うと、関東で全体の50%を超えています。ビジネスモデルとしては首都圏でやるほうが利益率も高く、リスクは少ないのですが、地方創生の視点で考えるとかなりの危機感があります。
村井:各地のクラブチームは零細企業ですし、非常に脆弱な基盤でやっていますので、地元の皆さんの協力が不可欠という面もあるんです。日本という南北に長い国で、北海道から沖縄まで気候も風土も違う地域があって、そこに55ものクラブがあるのは事実ですので、そこで郷土で培われたカルチャーと歴史を紐解いていくと、面白いエンゲージメントが見えてくるんです。
中西:音楽とスポーツが団結して、地元を盛り上げている例として長崎があります。長崎は人口減少率が全国1位になってしまっていて、なんとか活性化しなければいけないということで、長崎出身のさだまさしさん、サッカー日本代表の吉田麻也選手らも協力をして、地元企業のジャパネットたかたを中心に、新しくできるスタジアムをベースにした街づくりをやろうとしているんです。