中西:栗花落さんのお話を聞いて改めて思いますが、ラジオはやっぱり特別な存在なんですよ。僕も無類のラジオ好きで、ヘビーリスナーだった学生時代から、ラジオのDJをやってみたいという夢があって、「オールナイトニッポン」でしゃべったり、BayFMで番組を持っていたりもしました。そういった経験も含めて、例えば曲をかけるにしても、曲に対する思いをしゃべり手がすごく大切に伝えなくてはいけないと思うんです。今も昔もラジオにはそういう使命があるような気がしているんです。
栗花落:だから最近よく話すんですよ、「べっぴんさんラジオをつくりたい」と。「べっぴんさん」ってね、きれいな女性を意味する言葉かと思っていましたが、それは「別嬪」であって、「別品」と書く場合は違う意味になる。僕もNHKの朝のドラマを観て知ったんですが、特別な人のために、特別な思いを込めて、特別なものをつくることなんです。特別な人というのは、音楽を本当に愛している関西のラジオ・リスナー。特別な思いは、そういう人達に聴いてもらいたいというラジオのつくり手側の気持ち。特別なものとは、リスナーとつくり手の愛情が溢れたラジオ番組、ラジオ局。FM802は、べっぴんさんラジオにならなくてはいけないと改めて思います。
中西:とにかく新曲をかけていくという番組もいいと思いますが、丁寧に曲をちゃんと聴いて、DJが自分の思い入れを込めて好きな音楽を紹介していくことが大事だと思いますね。DJが気持ちを伝えることによって、CDであれば10枚か15枚かもしれないけど、より多く売れることが必ず起きるんですよ。
栗花落:今、中西さんがおっしゃったことは非常に大切で、ラジオは曲がかかるだけじゃなくて、DJがいる。このDJの存在がすごく大きいんです。同じアーティスト、同じ曲でも、そこにDJの語りが加わることによって、曲のイメージがもっともっと大きく広がると思うんですよね。
そこがラジオの素晴らしさなんです。
中西:本当にそう思います。
栗花落:だから僕はDJがいなくて、音楽だけ流すのであれば、それはラジオではないと思っています。FM802が「listen to the music」じゃなくて、「meet the music on the radio」というキャッチ・フレーズを使い続けているのは、そこなんです。音楽を「聴く」のではなく「出会う」のがラジオ。例えばCDを聴くとか、ライブに足を運ぶとか、自分の聴きたいものを聴くのが「listen to」だと思うんですよ。でも、ラジオはDJが選曲したり、リスナーのリクエストで曲がかかるわけですから、たまたま流れてきたものと出会う。新曲もそうだし、昔の曲が久し振りに耳に入ってきて、初恋の人を思い出すこともあるかもしれない。自分が選んだものを聴くことも大事な音楽体験ですが、その体験を広げるのがラジオの役割だと思います。
中西:そういった意味で、FM COCOLOの存在は大きいですよね。音楽と結びついた思い出を持っている人は、それこそ日本中にたくさんいるわけですから。音楽によってそれが偶然にでも蘇ってくるような体験を提供できるメディアって、実はありそうでなかったんじゃないでしょうか。それとover40に愛されているヒット曲は、実は若い人もみんな知っていたりするんですよね。
栗花落:確かにそうですね。新しいリスナーに愛されて、ヒット曲は成長しますし、うたっているアーティストも進化していますから。だからFM COCOLOでは、昔の曲をかけるだけじゃなくて、うたっているアーティストの現在も伝えていきたいんです。2月のマンスリー・アーティストには吉田拓郎さんを選び、ライブDVDに収録されている新曲「ぼくのあたらしい歌」をワイド番組のエンディングでオンエアしました。
中西:曲がかかるだけではなく、年齢を重ねたアーティストがリアルな今の思いを語れる場としてもFM COCOLOは貴重だと思います。テレビじゃないし、インターネットでもない。ぬくもりも伝えられることがラジオというメディアの役割ですよね。
栗花落:FM COCOLOにはFM802とは違う役割があるんです。もともとラジオ局は、1社1波で運営していくのが基本ですが、802が89年の開局当初にターゲットにしていた10代、20代のリスナーは今、40代、50代になってきているわけですから、1波だけでやっていると、どこをターゲットにしたらいいのか当然難しくなってきます。そこで思い切ってもう1波、COCOLOも運営して、長年802に親しんでくださった方々にそのまま聴いてもらえるラジオ局にしたかったんです。だから開局当初のDJやスタッフも、そのままCOCOLOに移ってきています。802はもう一度、新しく開局する気持ちで18歳の感性に応えられる局を目指していますので、その棲み分けがより重要になってきています。
中西:コンサート業界でも今、同じことが起こっていて、50歳以上のお客さんが増えているじゃないですか。そうすると警備の仕方にしてもシステムをカスタマイズしなくてはいけない。例えば年配のお客さんが多い公演では「客席が暗い、席番が見えない」と言われたり。でも確かに老眼だと見えないですし、考えてみれば僕も見えないんです(笑)。だから、お客さんのおっしゃる通りなんですよね。ラジオが1社2波の運営で棲み分けをしているとするなら、僕らもコンサートの運営を2ウェイ、3ウェイで考えていく必要がでてきているんです。