中西:まさにアーティストがそういう存在になってきています。テイラー・スウィフトなどがその最たるものでしょう。音楽が中心にあったとしても、そのアーティストのライフスタイル自体がファンにとっては憧れの的になっているわけですから。そこにフォーカスを当てれば、僕らはもっと面白い仕事ができるはずです。
アーティストじゃなくても、感覚的に時代が求めているライフスタイルを見通せる人っていますからね。カフェも同じだと思いますが、CDショップでも、パッとお店を見て、商品のレイアウトからポップから全部自分の感覚で入れ替えて、次の日から売上を倍にできるようなバイヤーがいたんですよ。ただし、そういった才能を持った人は、サラリーマン的な常識から外れたタイプが多いので、なかなか会社に定着しない例も多いんですが(笑)。
楠本:そういうタイプの人材を企業が雇用できなくなっていることが問題ですよね。今は感覚よりもデータを重視する傾向が強い。うちも飲食店経営ですから、一応POSデータからどんなメニューが売れているのか分析はしますが、その時点で全部過去のものじゃないですか。ビッグデータの解析が未来を変えるのも、確かな見解だとは思いますが、データよりも一人の常識外れの天才が言うことのほうが、未来を見通している場合もあるでしょう。
中西:突出した人材を育てるためには、経営者側が社員を枠にはめようとするとダメなんですよね。どんなことが得意なのか、社員の特性を早めに見抜いて、できる限り自由な環境のもとで良い面をなるべく伸ばしてあげるようにしないと。といっても一方でコンプライアンスの問題もありますからね。
楠本:法的なことを遵守するのは当然だとしても、発想の部分において奇想天外なアイディアが出たら、会社がブレーキをかけちゃいけないと思います。うちは衛生管理についてはきちんとマニュアル化していますが、社内マニュアルについては頑なにつくらないようにしているんです。レシピや接客の教本はありますが、それ以前の段階で「こうしろ」とは言わない。
中西:あるバンドが幕張でライブをやったのですが、左右の2階席が売り切れなかったんです。それでバンドのメンバーが何をやったかというと、一方には「Not Sold Out」と大きく書いて、もう一方にはお客さんの人形をたくさん置いたんです。満員にならなかったことを逆手にとって、遊んじゃっているわけです。それを見たファンは、そこまでやるかと思うと同時に、絶対次は2階まで満席にしてあげたいと思いますよね。
楠本:従来のマーケティングやプロモーションの戦略を踏まえれば、あり得ない行動ですが、そちらのほうが間違いなく面白いですね(笑)。