朝妻:ヒット曲を生むための環境をどう整えるか、今、誰もが見失っているというか、分からなくなっている気がします。僕が思っているのは、ユーザーに対して強い影響力を持ったコメンテーターを育てる必要があるんじゃないかということです。音楽評論家が候補者になったとしたら、各レコード会社が意識的にその方に仕事を発注して、雑誌でもインターネットでも使ってもらう。業界側がバックアップして、意識的に有名にするくらいしないとダメだと思うんです。
中西:ラジオのDJであれば「この曲、いいよ」とかけた瞬間に売れるみたいな、それくらいの勢いということですよね。
朝妻:そうです。山下達郎さんが自分の番組で紹介すると、やっぱりCD、レコードは動くわけです。それは彼の選曲をリスナーが信頼しているからです。同じようにアーティストではなくても、人々からちゃんと共感を得られるようなコメンテーターを何人育てられるかが大事だと思います。
中西:確かにスタッフからもスターを育てる必要がありますね。今の時代だったら、スタッフ・スターの候補には、ロック・フェスのオーガナイザー、プロデューサーも入るでしょう。もちろん、たとえスタッフでも、スター性は見極めなくてはいけないと思いますが。
朝妻:そうですね。スタッフのスターも重要ですよね。
中西:考えてみれば、フォークやロックが日本に浸透し始めた当時より、ファンの間でも知られているようなスタッフは少なくなりましたよね。ラジオのDJでも名前が知られている人は、ごく一部になってしまいましたし。
朝妻:60年代や70年代は、音楽産業もメディアも、あらゆる部分が未完成だったので、一人で色々なことができたし、一人で何かをやれば結構目立ったんです。今は業務の流れや役割分担が完成されていて、個人が担う仕事のパートが小さくなっているので、相当なことをやらないと有名にはならないでしょう。だから音楽業界より、IT業界のほうがスターを輩出しやすいのかもしれません。そういう意味では、ITの素晴らしい技術者を、いかに音楽業界に引っ張り込むかも視野に入れたほうがいいと思います。
中西:その時は「敵対」ではなく、「融合」がキーワードになりそうですね。