堀:とにかく会場に来てくれたお客様を満足させることにかけては、韓流のアーティストたちはすごい。徹底的にサービスしますよね。ポール・マッカートニーの来日公演でも、スマホで観客席から写真を撮ることをOKしていたじゃないですか。公演の様子がフェイスブックなどに無数にアップされて、結果的にお金をかけずしてワールドワイドなプロモーションにつながっていました。こういった海外のアーティストの動きは見習うべき点があると思います。もちろん、すべての規制を取り払うわけにはいきませんが、もう少し観客に歩み寄る姿勢は必要でしょうね。
中西:彼らは最初から、当然のこととして海外マーケットを視野に入れているので、意識が違うのだと思います。
堀:サイバースペースは別にして、日本のアーティストも、国内でこれ以上マーケットを広げるのは厳しいわけですから、海外に目を向ける必要があります。その際に日本と同レベルの活動環境が用意されているなどということは、まずあり得ません。極端をいえばホテルの部屋でお湯が出ないこともあるでしょうし、ステージに充分な音響や照明の設備が整っていないこともあります。そこは意識を変えなくてはいけませんし、マネージャーを含め英語を話すことは当然求められるでしょう。
中西:アジアを中心にJ-POPにも一定のニーズはあるのですが、現地のファンは、日本を代表するようなトップ・アーティストの公演を期待しているんです。そのリクエストに果たして応えられるかが大きな鍵になってくると思います。
堀:トップ・アーティストが定期的に海外公演をやるくらいじゃないと、海外のファンにJ-POPが定着しないことは事実でしょうね。一方で国内では、海外進出に対して、今やらなくてはダメなんだというリアリティがなかなか持てない現実もあります。
中西:本当に今、動き出さないと手遅れになってしまうのは確かなんですけどね。ACPCは音制連(日本音楽制作者連盟)の方々とともに、JAPAN NIGHT(9ページ参照)の実行委員会に参加していますが、海外進出に積極的なアーティストがいて、さらには業界全体の後押しがあって、初めて海外に向けたプレゼンテーションが可能になることを実感しています。
堀:アーティストだけではなく、例えば日本の番組制作会社が海外で新たな仕事を得られる可能性もあると思いますので、本当に業界全体で考えるべきなんですよ。日本では制作費が大幅にダウンしていて、番組制作の現場は厳しくなっていますが、演出や編集のノウハウと高い技術力があるので、海外でも仕事を得られるはずです。日本式の地デジを採用していて、機材も揃っている国はたくさんあるので、引く手あまたなんですよ。それはライブ・エンタテインメント関連の会社でも同じだと思います。今後はASEAN諸国で日本の会社が舞台制作を担う例が多くなってくるんじゃないでしょうか。こちらの意識の持ちよう一つで、自分たちの仕事の領域を広げていけるはずなんです。
中西:今年はJAPAN NIGHTを台湾とジャカルタで開催することがすでに決定しているので、そういった意味でも良い試金石になると思います。これからは海外進出に関しても、ぜひ音事協の皆さんとも連携していきたいですね。