会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
中西健夫ACPC会長連載対談 vol.01 ゲスト 尾木徹(日本音楽事業者協会 会長)
ライブ・エンタテインメントの未来は業界が一致団結することから見えてくる(2)
マネージャーの「振り幅」。プロモーターのインフラ
中西:ライブ業界は今、日々の業務をこなすことに精一杯で、次に向かう力をなくしている人が増えている気がするんです。プロモーターにも、もちろん優秀な人材はいるのですが、近年は公演本数が急激に増えてきていて、忙しさで余裕をなくしている面があります。一方で音事協加盟社の若い社員の方々は、すごく活き活きとされているし、よく色々なエンタテインメントをチェックしているなと思うんですよね。それは各プロダクションに、人材育成のシステムがあるからなのでしょうか?
尾木:端的に言えば歴史でしょう。各社の歴史が社員に必要なものを自然に身に付けさせると言いますか。音事協独特の生き方みたいなものがあって、誰が教えるわけでもなく自然に身に付いていく。だから音楽業界が不況になっても、お笑いで、あるいは俳優業で生き残っていけるんです。お笑いがテレビの中心になっていくと、研究会を立ち上げて、番組作りの勉強会も企画し、人事育成のためのシステムを作り上げようとします。そういうことに対してはものすごく熱心なんです。
中西:なるほど、確かにそうですね。
尾木:音事協では、ミュージシャンでもシンガーでも、音楽だけやっていればいいとは誰も思ってないでしょう。歌だけだと、いつかどこかで、必ず頭打ちになりますから。俳優であれば、ドラマだけではなく、舞台にも出演させる。あるいは司会にも挑戦させる。そういった振り幅をつけることがマネージメントだと思うんです。それをみんなが本能的に知っていて、人材育成のノウハウに表われているのだと思います。まあ、たまに「日本音楽事業者協会なんだから、音楽をもっとがんばろうよ」と言いたくなる時もありますが(笑)。
中西:コンサートプロモーターの立場からすると、コンサートだけを自分たちの仕事だと考えているわけでは全くなくて、ライブ・エンタテインメント全体の市場をもっと大きくして、日本の娯楽として定着させることが目標なんです。「今日は演劇で感動したいな」という日があってもいいですし、「お笑いでストレス発散したいな」「コンサートで盛り上がろうよ」と色々な選択肢を用意することが大事ですよね。そのためのインフラ作りを、音事協の皆さんとご一緒しながら進めていきたいですね。
世界進出と「国家戦略」。今、業界団体にできること
中西:音楽業界全体について改めて言えば、今や国内のアーティストの競争だけではないですからね。コンサートに関しても、ここ数年は韓国のアーティストの公演が本当に増えました。
尾木:韓国のコンテンツは、まず映画から入ってきて、その後ドラマで大きなブームを起こしましたよね。そして次は音楽。この第三波も、ものすごい勢いで広がりました。私もずいぶん勉強させていただきましたが、当初は韓国のアーティストが、あれほど高いレベルのダンスと歌をできるとは知りませんでしたから。
中西:10年前までは誰も想像もしていなかったですから。彼らのパフォーマンスの基盤になっているのは、要するに英才教育ですよね。日本が子供たちに勉強ばかり教えている間に、スポーツやエンタテインメントの教育では、韓国に遅れをとってしまった。そろそろ日本の音楽業界も、未来のアーティストのために真剣に考えなくてはいけないですね。
尾木:次の世代の才能のために、良い種をまくことが我々の役割だとすると、最終的には国を巻き込んだ国家戦略につなげていかなくてはいけないと思います。アーティスト育成にしろ、日本の音楽の海外進出にしろ、業界がまず団結して、国に働きかけていくことが重要になります。
中西:団体の枠にとらわれている時代ではなくなってきていることは確かだと思います。
尾木:これまでは井の中の蛙同士だったかも知れませんが、時々は出てきて話し合って、大海に乗り出していくことが必要になってきたんじゃないでしょうか。中西さんも国への働きかけを積極的にやっていらして、本当に素晴らしいと思っています。これからは音事協や音制連(日本音楽制作者連盟)も含めた、さらに大きな動きにしていきましょう。