「音楽の仕事をやっています」だけでは
立ち行かない時代になってきています。
中西健夫
コンサートプロモーターズ協会会長
中西:ホテル(スタジアムシティホテル長崎)のスタジアム側の部屋(スタジアムビュー)に泊まられた方は分かると思うのですが、部屋から試合を観ることができるんです。サッカー観戦の方法として、一番ラグジュアリーだと思いますし、画期的ではないでしょうか。僕は本当にサッカーが大好きなので、これがどんなに贅沢なことかが理解できるんです。スタジアムを上から見ると、試合の流れを決めていく戦術が伝わってきますからね。オフサイドラインで相手をオフサイドトラップに誘い込む動きとか、本当によく分かる。そういったマニアックな見方だけではなくて、プライベートな空間で家族や仲間と一緒にお酒を飲みながら、語り合いながらサッカーを観ることができるなんて……実現してくださって、ありがとうございます(笑)。
髙田:中西さんが応援しているクラブと、うちのV・ファーレン長崎がJ1への昇格を争っていましたが……そちらは無事、昇格されて、私は心からお祝いのメッセージを送らせていただきました(笑)。
中西:なんか、すみません(笑)。でも、僕は今後、長崎には絶対J1に上がってほしいと思っているんです。といいますか、もっと強いクラブになっていくんじゃないかと。例えばJ1のサンフレッチェ広島がスタジアムをつくりましたよね(エディオンピースウイング広島/2024年2月開業)。そうすると強くなるんですよ。多くの人に観られて、応援されるという環境はクラブを強くするのだと思います。技術や戦術以外のところで気持ちが入ってくるといいますか。長崎もそうですよね。
髙田:確かに大きく変わりましたね。選手のリアクションが。
中西:これは不思議なもので、人は環境によって本来持っているものを超える力を出せるんですよ。場が人に力を与えて、人の力がまた別の人に波及して。コンサートプロモーターもそういう何かを生み出す仕事をしていると思いますし、ジャパネットさんのお仕事にも共通点があるはずです。本当に多岐にわたるビジネスをされていますが、我々もその中でご一緒にできることがあると考えています。
中西:具体例を挙げるなら、ここのところキャリア組のアーティストの動員が、驚くくらい伸びています。ちょっとびっくりするくらいで。キャリア組とはお客さんの平均年齢が60歳以上の方で、日本の音楽シーンのゾーンがさらに広がってきたといえると思います。ジャパネットさんの通販事業の顧客も60代、70代の方々と聞いていますし、今後僕らが大事にしなきゃいけないキャリア組のアーティストを、どのようにプロモーションしていくかという点では連携できるのではないでしょうか。
髙田:私達は3年前からテレビのBS放送に参入していまして、2025年1月からBS10という新しいチャンネルもスタートします。例えば長崎スタジアムシティでのイベントを収録した1時間番組を放送して、その後にホテルの紹介もして、コンサートとホテルのセットを通販で販売してみようと考えています。実際にトライアルで実施もしまして、石川さゆりさんのコンサート・チケットとホテルの宿泊セット、アイスショーの「プリンスアイスワールド」のチケットもホテルとのセットで販売しました。我々の通販事業のお客様の平均年齢は70歳ちょっとで、平日でも足を運んでいただける方が多いので、平日の公演ですが、結果400人くらいにセットを買っていただきました。今までエンタメの魅力が届いていなかった方に、我々流にリーチしていこう、リーチした方がまたここに来たいと思ってもらえる会場と施設にしていこうと考えているんです。
また、キャリアがあるアーティストの皆さんには、ライブレストランのTHE CLUB NAGASAKIが理想の会場になり得るのではないかと思っています。平日に3公演、火、水、木曜日と3日間ライブを開催して、アーティストの方にも3日間ホテルに泊まっていただく。例えばそれを年に3回できないかと。春と夏と秋で定例化して、それを我々がちゃんとチケッティングしていく。確かに長崎だけで毎回200人を動員するのは難しいと重々承知していますが、我々はBS放送をはじめ全国に発信しますので、集客できるだけの力を持てると考えています。それと出演者の方に楽しんでいただくことも大事。清塚さんのコンサートの時もそうでしたが、前後で一緒にサッカーを観たり、温泉に入っていただいたり、ここにいらっしゃるプロモーターの皆さんも含めて各関係者にも楽しんでもらって、収益を上げられる機会を定着させることができれば、皆がハッピーな世界をつくれるんじゃないかと思っています。
中西:キャリア組のアーティストだけではなく、もちろん若いアーティスト、今まさに人気があるグループやバンドも大切な存在ですが、僕らは売れているアーティストのコンサートだけを手がけているわけではありません。そういった意味では、現状よりさらに売らなきゃいけない人を売っていくことがプロモーター全体にちょっと欠けているんじゃないかと思っています。その時にご一緒できること、できないことをご相談していければと。
髙田:私達も3つくらいライブレストランを稼働させるパターンを考えていて、1つは名前が広く知られていて、チケットもすぐに売れるような方、同時に出演料も当然高い方。2つめは、チケットが一瞬で売れるわけではないけれども、ランクがある程度高い食事のメニューを用意することなどで、セールス方法を考えていくべき方。さらには、地元の歌がうまい人やピアニストの音楽をフラッと入ってきても楽しめて、美味しいご飯が食べられるという場所にすること。幅広く使えるレベルを設定しています。
それとアリーナではキャパシティ設定の段階がありまして、フロアに席とテーブルを用意してディナーショー形式にすると、収容人数はだいたい1000人くらい。フロアを囲む観客席全体にお客さんを入れると3000人くらい。この段階では一番上の客席は暗幕で見えなくしていますが、そこをオープンしてお客さんに入っていただくと5500人。例えば最初はチケットを1000枚で売って、売行がよければ3000枚に広げて、最終的には5000枚まで収容できるという設計に結構こだわりました。出演者も観客も、空席があると一気にテンションが下がるものですし、逆に売れるのに客席が足りないのはもったいない。じゃあ、収容人数を可変式にしようと工夫をしたのが、このアリーナなんです。
これは通販事業で学んだ発想でもあります。家電でもそうなんですけれど、人気があって買えないということが商品訴求になるんです。エンタメはまさにそれをうまくやられている世界だと思いますが、チケットが買いたいのに買えない、会場に入れないという状況は余計に買いたい気持ちを募らせるんですよね。コンサートにとって「満員」の意味はすごく大きいと思います。