中西:その後、ap bankを立ち上げて(2003年)、ap bank fesも2005年から継続されています。環境問題について何か発言をする人はたくさんいらっしゃいますが、小林さんのようにずっと取り組みを続けることは本当に大変だろうなと改めて思います。
小林:成り立ちを丁寧に話すと、ap bankは「bank」という名称から分かるように、当初、自然エネルギーや環境保全活動をされている方々への融資をしていたんです。月1くらいで識者が集まって、融資審査を僕も櫻井くんも参加してコツコツやっていました。自分達の力だけでしたら限界があるし、活動の輪を広げて、東京から離れた場所でがんばっている人達と話をしたり、誰かが直接視察に行ったりすれば新たに見えてくるものもあると思ったからです。とはいえ、自分達のお金だけでやっていたら、やっぱりどこかで資金は尽きてしまいます。そこで初めて音楽とap bankをつなげることになり、ap bank fesという場をつくることになりました。
中西:その過程で小林さんがよくおっしゃっている「利他」というキーワードが出てきたんですね。
小林:例えば地球の温暖化に対して、ap bankに関わっている人達の中でも意見の違いはあるんです。僕と櫻井くんにも考え方が異なる面もあります。でも、この活動は自分のためではないんです。自分以外の誰かだったり、何かに向けて動くことが、一つひとつのモチベーションになっています。ap bankに集まったお金を何のために還元していこうとか、ap bank fesをどうしていこうかとかは、何かのため、誰かのために考えることだから、そこは意外と揺るがないんですよ。シンプルにいえば「利他」という言葉になりますが、「利他」と「利己」は、そもそもつながっているところもあるじゃないですか。2021年にBank Bandのベスト・アルバム(『沿志奏逢4』)を出すことになった時、このバンドの活動は自分達の音楽、クリエイティブの満足度を上げるためにやっていたことではないけれど、20年近く続けていると、自分の音楽にもちゃんとプラスになってくるんだなと気づきました。もちろん、すべてのものづくりは、そういうところがあると思いますが、ちゃんと自分に帰ってくる。結局、自分の栄養にさせてもらっているし、だからこそ、もう少し続けていこうという気持ちにもなるんだと思います。
中西:小林さんがap bankを続けていることの影響は、色々なところに届いていると思います。僕自身もやっぱり影響を受けていますから。9.11の時はテロというものに大きなショックを受けましたが、正直なところ海外の出来事でリアリティはなかった。でも、2011年に東日本大震災があって、続いてコロナもあればウクライナ戦争もあり、能登半島地震が発生するに至っては、世界中で起きている出来事に日本人として何ができるか、どう考えるべきかと考えるようになりました。特に東日本大震災の時は、小林さんが真っ先に被災地へ行かれた姿を見て、復興に向けて自分には何ができるかと考えましたね。せっかく音楽に関わる仕事に携わっているのだから、やるべきことをやらなきゃいけないと強く思い、社会的な問題に対する責任を意識し始めました。自分はそんなに崇高な人間でもないし、なんなら適当に生きていきたいほうですが(笑)、「いや、これ違うな」と思ったのは、小林さんの影響が大きかったです。
小林:そうおっしゃってくださることは本当にうれしいですね。ただ、僕は皆さんに僕と同じことをやってほしい、僕に続いてほしいとはあまり考えていないんです。例えば、若いミュージシャンが「小林さんのように僕らもやりたい」と言い出したりしたら、むしろ心配になると思います(笑)。僕自身も坂本龍一さんなど先輩方と全く同じことやりたいとは思いませんでしたし、前面に立つミュージシャンではなく、音楽プロデューサーというスタンスに重きを置いているからこそ、ap bankの活動も続けられたような気がします。それと音楽は、そもそも利他的な要素を持っているじゃないですか。目に見えない誰かに、何かの思いを届けるためにつくる面もあって、その音楽のもとに考え方は違うかもしれない、多様な個性を持ったアーティストが集まることが大事なんじゃないかなと。ap bank fesもそういう在り方を目指していますし、集まったアーティスト達も共感の仕方は微妙に違うんだけど、どこかで参加することの意味を感じ取ってくれればいいと思っています。
中西:この間あるミュージシャンと話していて、「小林さんは音楽に魔法をかける魔法使いだ」という話で盛り上がったんです。楽曲だけではなくて、ap bank fesにも魔法がかかっているんじゃないですか。
小林:(笑)魔法かどうかは分かりませんが、何かが降りてくる瞬間はあったかもしれないですね。振り返ってみると。ap bank fesに矢沢永吉さんが出てくださった時(2009年にシークレット・ゲストとして出演)とか。
中西:イメージ的には矢沢さんと小林さんは遠い感じがしますが、実はめちゃめちゃ近いかもしれないと思いました。
小林:本当にそうですね。
中西:共感し合うものがあった時、僕らは1+1=10になる時もあると思うんですけど、それが生まれる時ってコンサートプロモーターにとっても一番の幸せです。