中西:現在、全国で20から30カ所、スタジアムやアリーナを建設する構想がある中で、これからは発想自体を大きくスイッチするべきだと思います。欧米には「ノン・フットボール・スタジアム」という考え方があり、試合会場としてのスタジアムを建てることがゴールではなく、スタジアムやアリーナを中心とした街づくりを最初から施策にしているんですね。この後、村井さんからもお話があると思いますけれど、アジアでもシンガポールにタンピネス・ハブのようなエリアが生まれています。
村井:タンピネス・ハブはスタジアムを中心に、図書館や映画館があり、プールなどのインドアスポーツも揃っている巨大な複合型施設です。多機能型のサッカーピッチがあって、その周りを囲む6階建てのビルにショッピングモールや文化施設、病院、学習塾も入っている。スポーツが好きな人はスポーツ施設に行きましょう、文化の好きな人は図書館や映画館に行きましょうと分断するのではなく、すべて揃った場所を提供して、あらゆる人々が影響し合うシナジー効果を期待するわけです。
中西:日本でモデルケースになり得るのはガンバ大阪の本拠地、パナソニックスタジアム吹田じゃないでしょうか。ある方から「今、日本で一番、障害者が利用しやすいスタジアムはここです」と教えていただき、ACPC研修会の会場に選んだんです。
村井:ガンバ大阪のホームスタジアムは、地元の皆さんからの寄付や、totoの助成金をいただいて建設したもので、基本的に税金は使っていないんです。行政にお願いしてつくったスタジアムですと、ホームチーム用もアウェイ用も、すべての設備が平等になるんですが、ここはホームチーム側のロッカールームだけ円形になっています。屋根がドーム型になっていて、監督が真ん中で指示を出すと、そこにいるチームのみんなに声が届く。お風呂は温水浴と冷水浴があって、15分間のハーフタイムに疲労を癒やすことができる。さらにホームチームのゴール裏に位置する客席は、サポーターが一体になって応援できるような構造になっています。
中西:スタジアムの中には、企業が研修で使えるスペースも豊富にありましたね。普段はVIPの観客のためのスペースになっているところですが、ちょっとしたパーティーまでできる。実に素晴らしい施設でした。
村井:パナソニックスタジアム吹田は、そういった多機能性を備えたスタジアムのさきがけだと思います。
高木:スタジアムのデジタル環境がさらに整っていくと、もっと色々なことができると思います。たとえば5Gの導入で通信の遅延がなくなると、会場でサッカー観戦をしながら、自分の持っているスマホで選手にクローズアップした映像をリアルタイムで観られるようになるかもしれません。リアルなスポーツだけではなく、現在観客数が増えつつあるeスポーツでも、通信環境の整備が進んだ会場で、実際にライブで行われていることと、デジタルコンテンツが同時に楽しめるようなサービスが求められていますし、こういったバーチャルとリアルを融合させた新しい試みが生まれる可能性もあるでしょう。それと、ネットを通して出演者に「投げ銭」ができるSHOWROOMというストリーミングサービスがありまして、ライブと投げ銭はすごく相性がいいそうです。ライブを会場で観ながら、拍手をしたくなる瞬間や、感動した瞬間に端末からパッと投げ銭できたりすると、観客の参加意識もより高まると思います。