会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.03 加藤裕一(株式会社レコチョク 代表執行役社長)
「未開拓ゾーン」の開拓と音楽を語るコミュニケーション
中西:未開拓ゾーンというのは我々にもあって、日本に3000万人いる65歳以上の方々へのアプローチはまだまだ足りないと思います。韓流ブームもあって、女性はコンサートにも足を運んでいただけるようになったと思いますが、定年退職された団塊の世代の男性に対しては今後、業界全体でアプローチの方法を考えるべきですよね。音楽を発信する側は、つい若い人たちに目が行きがちで、新しいものをつくる努力はしますが、ちょっと視点を変えれば、巨大な未開拓ゾーンがまだまだある。例えば、レコチョクのプラットフォームに残っている購買履歴を分析すれば、シニア層をターゲットにした戦略を練る、一つの突破口にはなるんじゃないでしょうか。
加藤:はい。これも全く同感ですね。家庭を持ったり、子どもができたり、生活環境の変化で、音楽との向き合い方や楽しみ方が確実に変化していきますから。その変化のタイミングで、どういうアプローチをするかが重要になります。僕らのこれからのサービスコンセプトも「音楽は記憶だ」を据えて展開したいと思っています。音楽を聴くという行為の背景には、必ず個人的な体験、思い出がありますから。その点が音楽ビジネスのキーになることは間違いありません。その上で、もともと音楽を好きな人には、その気持ちを維持していただき、そうじゃない方には新たに音楽と出会えるようなシステムを構築できれば、音楽市場は活性化すると思います。つまり、音楽との「出会い」と「再会」を演出することを目指したいですね。
中西:これはあくまでフラッシュ・アイディアですが、例えば年齢で入場者を限定したイベントやコンサートを企画して、選曲や出演アーティストのラインアップはレコチョクにある膨大な販売データからセレクトすることも可能ですよね。その日に演奏される楽曲の音楽配信とも連動して。
加藤:面白いですね。コンサートのセットリストの音源や、ライブ演奏をダウンロードしてもらう形の配信は当然考えられますよね。それに加えて、友達に連れられて来た、アーティストの熱心なファンではない観客がいたとして、その方にもっとアーティストを好きになっていただくサポートを、僕らがお手伝いすることもできるかも知れません。試しに1曲だけダウンロードしていただくことから始まって、そのアーティストの他のコンテンツにも誘導していく流れをつくることは可能だと思います。弊社だけでは力が足りないと思いますが、コンサート、音楽配信、アーティスト・プロモーション、CD販売などを、すべて連動させるシステムは絶対に必要ですよね。そう考えると音楽業界全体で力を合わせてできることは、確かにまだまだあると思います。
中西:音楽に対する思いを共有できるか、そんな原理原則が今だからこそ必要だと思うんです。例えばテレビでドラマを観たら、脚本の出来や出演している俳優の素晴らしさを一緒に語って、ドラマで流れている音楽の話もする。音楽を仕事にしているのであれば、自分ならこんな音楽にするという意見があるはずです。そういう思いを共有できるかどうかが原点であり、実はとても大事なことじゃないでしょうか。
加藤:ビジネスチャンスも、そこにありますからね。CDシングル全盛の時代は、ドラマでタイアップの曲を耳にして、「この曲、知ってる?」「カラオケで歌ってみようよ」というコミュニケーションがありました。着うたも楽曲のワンフレーズを友達に聴かせて、「知ってる?」と自慢したりするコミュニケーション・ツールとしての機能が大きかった。残念ながら、これは今、ゲームやSNSに取って代わられてしまいましたが、音楽がコミュニケーションのベースにあることで、ビジネスチャンスが生まれるとするなら、僕らももっと音楽を語り合わないとダメですよね。