会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

「JAPAN NIGHT」への道 数々の伏線と「あの日の会話」

「聖地」国立競技場から見えてきたライブ・エンタテインメントの未来

撮影:宇都宮輝(鋤田事務所)

「アレンジがオリジナルに忠実だと、 心の底から一緒にうたうことができる」(中西)
「同じ空気を吸っている距離感を生み出して、 感動させるのが本当のプロの仕事」(亀田)

2020年の東京オリンピック/パラリンピック開催に向けて、国立競技場は「オリンピックスタジアム」へと生まれ変わるため5月末に閉鎖。その直前の5月28日と29日、2日間にわたって、最後の音楽イベント「JAPAN NIGHT〜MOVE WITH THE MUSIC OF JAPAN」が開催されました。このイベントにはACPCも協力し、中西健夫会長はプロデューサーの一人として参加。出演アーティストのブッキングなどに奔走しましたが、その中西会長が28日「Yell for JAPAN」〔出演:いきものがかり、ウカスカジー(桜井和寿 & GAKU -MC)、岸谷香、ゴスペラーズ、斉藤和義、スキマスイッチ、ナオト・インティライミ、ファンキー加藤、ゆず〕の音楽監督をお願いしたのが亀田誠治さんです。音楽プロデューサーやアレンジャー、ベーシストとして多岐にわたり活躍し続ける亀田さんですが、実は中西会長とは長い付き合い。日本音楽史に残るイベントになった「JAPAN NIGHT」のバックヤードを振り返るとともに、ライブ・エンタテインメントの未来についても、忌憚のない意見を交換しました。

中西:僕が「JAPAN NIGHT」の企画を聞いたのは、開催初日の5月28日まで、あと3ヶ月というタイミングでした。日本音楽制作者連盟さんから、初日は日本を元気にし続けているアーティストが集う「Yell for JAPAN」、2日目が海外に向けて音楽を発信しているアーティストの「JAPAN to the World」というテーマ設定を伺っているうちに、国立競技場で聴きたい曲が次々と頭に浮かび、その中心にいるアーティストとして、亀田さんの存在が頭の中でドーンとクローズアップされてきました。最初に声をおかけしたのは3月に入ってからで、通常ではあり得ないオファーですが(笑)、もう亀田さんしか考えられなかったんですよ。

亀田:もともと僕と中西さんの間には、一緒に積み上げてきた歴史がありました。僕が音楽プロデューサーとして、ミュージシャンとして駆け出しの頃から、中西さんは僕にいつも温かい声をかけてくださっていましたよね。最近でいえば、僕が開催しているイベント「亀の恩返し」でも全面的に協力してくださっていますし、とにかく中西さんから声をかけられたら無条件に「これは何か楽しいことが起きるぞ」という気持ちになるんです。準備期間を考えると、ムチャ振りともいえるお誘いでしたが(笑)、すぐにぜひ参加したいと思いました。

中西:考えてみれば、ここ数年でも色々な伏線がありましたよね。今回は東北にもライブビューイングで中継しましたが、東日本大震災の直後に亀田さんとミーティングをしたんです。もともと食事をする約束はしていたのですが、震災が起きてしまって街は真っ暗。お店もほとんど営業していない中、二人でお話しましたよね。

亀田:震災から3日後か4日後でしたね。あの時は本当に熱く語り合いました。

中西:「こんな時に音楽は必要なのだろうか」「僕達に何ができるのか」をテーマに。「JAPAN NIGHT」は、特に震災からの復興を大きく掲げたイベントではありませんが、亀田さんに音楽監督をお願いするに当たって、あの日のことが根底にあったと思います。

亀田:僕はプロデューサーで、中西さんはコンサートプロモーターと立場は違いますが、音楽はどうあるべきか、ミュージック・ビジネスに何かできるかについて、僕達が同じ方向を向いていることを確認できた日だったと思います。

中西:それと2020年の東京開催が決定する前に、オリンピックやパラリンピックのお話もしました。

亀田:そうでした。具体的ではありませんでしたが、オリンピックに向けて「僕達で何かできたらいいですね」と語り合いました。僕は特に前回の東京オリンピックが開催された1964年の生まれですから、オリンピックへの思いはすごく強いんですよ。

中西:そんな二人が参加して、国立競技場のファイナル・ウィークを音楽で締めることができたのは、本当にうれしいです。サッカーやラグビー観戦で何度も訪れている僕にとって、いちファンとしても国立競技場は聖地ですから。たとえ準備期間はハードでも、こんな仕事を断るなんてあり得ないと思いません?

亀田:はい。アーティストの皆さんも、国立競技場やオリンピック、そしてこれからの日本、すべてのがんばっている人に対しての思いがあったからこそ、忙しいスケジュールにもかかわらず、出演してくれたんじゃないでしょうか。

中西:全く同感ですが、亀田さんが音楽監督ということで、アーティストの方々が安心して出てくれたのも事実です。

亀田:まあ「音楽監督」という名称は後付けのようなもので、最初はとにかく、あらゆる音楽性に対応できるハウスバンドの結成から考えました。「亀の恩返し」だったり、クインシー・ジョーンズが来日した際にトリビュートパートを担当させていただいたバンドだったり、ハウスバンドについては自分なりのノウハウを培ってきましたので、信頼できるメンバーとスタッフを総動員しました。

中西:出演したアーティストも、口々に「このバンド最高ですね」といっていましたね。

亀田:アーティストは、まさに日本代表メンバーでしたけれど、それを支えるハウスバンドのミュージシャンも、本当にトップクラスの布陣を集められたと思います。

中西:2日目の「JAPAN to the World」も素晴らしかったです。最高のオープニングを飾ってくれたMAN WITH A MISSIONをはじめ、独自の世界観を展開するSEKAI NO OWARI、テクノロジーとの融合を極めたPerfume、そして風格すら感じさせるL’Arc~en~Cielと、こちらも日本を代表する顔ぶれでした。


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