ACPCの活動内容と取り組み音楽産業の発展に向けて
コロナ禍のライブ・エンタテインメント 2020-2021
ACPCと全国のコンサートプロモーターが
ライブの復活に向けて、この1年で辿り着いた確信
ライジングサン、スーパーソニック、フジロック
2020年、すべて延期となった
日本を代表するフェスの苦悩と突破口
- 札幌もコロナの影響を大きく受けたエリアです。ウエスの若林さん、いかがでしょうか。
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若林この1年間は、北海道エリアのプロモーターとして、フィジカルなライブ活動をどうやって続けていくか、リアルな場でお客さんとどう音楽を共有して、ミュージック・ビジネスの裾野をどう広げていくか、本当にたくさんのことを考えさせられた期間でした。
北海道は飛行機で来て、宿泊していただいて、関連産業も含めて成り立っている観光地でもありますが、コロナによってその根本が揺らいでしまいました。ライジングサン(RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO)も道外から来てくれるお客さんが多いですし、例えば大型のドーム・コンサートも、関東でチケットを取れなかった人が、観光も兼ねて札幌ドームに足を運ぶ場合も多かったと思います。音楽産業側から見ても、全国をツアーで回ってアーティストをプロモーションする、フェスに出ることでアーティストが成長していく、そんなフォーマットが全部壊れてしまったような気持ちになりましたね。
また札幌でもクラスターが起きてしまったライブハウスが数カ所あり、メディアで徹底的に叩かれたこともあってか、2店が閉鎖に追い込まれました。今はインターネットからデビューするアーティストもいて、エリアプロモーターの役割も変わってきていると感じますが、ライブハウスから活動を始めるアーティストも変わらずいますので、そのスタート地点がなくなってしまう、表現の場がなくなってしまうのはプロモーターにとって大きなマイナスだと思います。 - 2020年は主催されているライジングサンも延期となってしまいましたが、そこに至る経緯を教えてください。
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若林メディアにおいても、「CDリリースの告知はしていいですが、ライブの告知はできません。人を集めるような情報は放送局として発信できません」という相当厳しい状況でしたね。メディアの方も道外から入ることができなかったので、今まであれば、街を使って、人を通して直接情報を伝えていたことが、すべてリモートになりました。つまり、ライジングサンを開催しようとしても、ほとんどプロモーションができないということです。道外から人を入れられない、接触はできないとなると、そもそもフェスティバルでやりたいことがほとんどできないことになってしまいますので、色々と考えた結果、昨年のライジングサンは「次の年に向けて、今回の開催は延期します」という形にしました。お客さんもこの状況では仕方ないと思っていただけたと思いますが、少なくとも「前を向いて、開催へ気持ちは向かっています」とメッセージは伝えたいと考えました。
- サマーソニックなどを主催されているクリエイティブマンプロダクションは、海外アーティストの招聘が業務の中心ですので、また別の意味で逆風が強かったと思います。清水さんに伺います。
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清水コンサートが延期や中止されるようになった昨年の3月から5月は、弊社だけではなく海外アーティストの招聘プロモーターにとって、本来は来日ラッシュの時期なんです。それが一気にダメになったことで、当時はとにかくその対応に追われていました。次の段階に入ると、再開に向けての目標がないと前に進めないので、サマーソニックの代わりとして9月のスーパーソニックの開催を目標に動き出しました。
そんな中で様々なアゲインストはあったんですけれど、開催してほしいという声がすごく大きかったので、配信でサマーソニックの過去の映像を配信して、気分を高めながら準備を進めていました。でもご存知の通り、海外からアーティストが入国できないということで、開催1カ月前の8月に延期を決定しました。延期を発表した時もたくさん応援の声をもらったのですが、次の目標というか、そこから先がどんどん見えなくなっていったのも事実ですよね。10月、11月と何もできない中で、自社だけじゃなく、周りも含めて危機感が強くなっていきました。ACPCにも海外アーティストの招聘を中心としているプロモーターは何社か加盟していますが、これまで招聘プロモーターだけで集まって話し合うことも、一丸となるようなこともなかったんです。ライバル会社同士ですから当たり前ですし、昔だったら各社のトップが顔を揃えるなんて絶対あり得なかった(笑)。でも、今回の状況は過去にないことですので、ACPCで声がけしてもらって、招聘プロモーター10社が集まりました。これは日本の洋楽史を考えると革命的なことです(笑)。
10社が集まって、まずここは一丸となって動いていこうと確認し合ったうえで、議論したポイントは2つ。1つはJ-LODliveという補助金制度(中西会長が後述)が動き出したことは大変良かったのですが、洋楽のコンサートは対象外だったんです。この制度は日本の文化を海外に広めていくことを目的とした協力金なので、海外アーティストの招聘は対象外――その理屈自体は理解できるのですが、洋楽のコンサートは日本の文化を高めるための役割を果たしていると思います。洋楽のコンサートに触れた日本のアーティストが、自分達の音楽性を高めていく礎にもなっているし、フジロックやサマーソニックなどのフェスは、海外のお客さんを日本に呼び寄せて、インバウンドにすごく貢献している。日本に来たお客さんが日本文化に触れて、持ち帰って、自国で広めてくれている。通常のコンサートでもそうです。コールドプレイの会場では、5割くらいが海外からのお客さんで、客席から色々な国の言葉が聞こえてきますから。そういったことを我々は訴えていくべきではないかと。
そしてもう1つは、東京オリンピック・パラリンピックを間近に控えて、海外からアスリートやアーティストが来日できる環境をなるべく早く整えるために、スポーツ界や音楽界が声を上げるべきではないかということ。それは僕らも「今すぐ受け入れて」と無理を言うわけではなくて、この先、夏に向けてそういう方向に進んでいかないといけないし、我々もどんどん訴えていくべきでしょうということで、各社協力してやっていこうと話し合いました。 - 来日公演がストップしてしまうと、レコード会社や洋楽を扱うメディアへも影響が大きいですよね。
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清水最近は海外のアーティストがCDをリリースしても、プロモーションの機会は生まれにくくなっています。コンサートやフェスで来日することが、アーティストの素晴らしさを伝える最大のチャンスなんです。来日することによって、音楽誌やWEBメディアが特集してくれたり、テレビへの出演機会も出てくるわけですから、このままだと洋楽カテゴリーがどんどんシュリンクしていくだけです。実際SpotifyのチャートでTOP100の中に、この1年で洋楽はほとんど入っていない。レコード会社への影響も当然大きいです。日本の音楽業界が鎖国状態になってしまい、同じような傾向の音楽しか聴かれなくなり、世界で戦えない音楽市場になってしまうと思います。
- 東京でも様々な試行錯誤が続けられました。主催のスマッシュとともに企画・制作に参加されているフジロックフェスティバルのことも含めて、ホットスタッフ・プロモーションの横山さんにお聞きします。
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横山今、私達が直面している状況は、過去に経験のないことでもありますし、当初は在京のどのプロモーターも、1カ月から2カ月程度で終息するだろうと考えていたと思います。昨年の場合は、今できないにしても振替公演を5月や6月にシフトすれば乗り切れる気がしていたのですが……緊急事態宣言が4月7日に出てから6月末くらいまで、全く公演ができない状況になってしまいました。コンサートはかなり前から開催するか、しないかを決めなければいけないので、去年の3月、4月、5月に振り替えたもの以外にも、夏に開催予定の公演をどうするか決めなくてはいけません。フジロックフェスティバルもまさにそうで、昨年春の段階で夏になっても海外アーティストを招聘できない可能性が高まっていたので、4月にスマッシュさんと話をして、1年延期することを5月に発表しました。
7月下旬くらいから徐々に有観客公演もOKになってきたんですけれど、コンサートをやること自体が批判の対象になる状況は変わらず、有観客でやったとしてもキャパシティの半分しかお客さんを入れられなかったり、ライブハウスでも間隔を空けた椅子席になったり、正直にいえば採算もとれないという悪夢のような状況が続きましたね。今年に入って少しずつ一定規模の会場での公演も再開し始めましたが、やはり2回目の緊急事態宣言が出された状況では、やはりお客さんが戻ってきていません。
コロナの感染は場所ではなく、行動によって拡散されますが、そのことを今訴えても響かないと思うんですよね。でも、どこかのタイミングで政府がちゃんとそれを伝えて、安全な状況になったら100%のお客さんを会場に入れて、安心して音楽を楽しめるという認識を広げていってほしいです。