伊賀千晃:ひめキュンフルーツ缶 総合プロデューサー,
サロンキティ/マッドマガジンレコード代表取締役 寺坂淳一:デューク/duke records
ひめキュンフルーツ缶『恋の微熱』リリース時のアーティスト写真
例えば今、渋谷のタワーレコードの1階、2階をひと通り見て回れば、ディスプレイが以前とだいぶ変わったことに気づくはずです。J-POPの売場の中でも、急激にその面積を広げつつあるのが女性アイドルグループ。AKB48関連以外にも百花繚乱、数々のCDが並んでいます。
近年のアイドルグループの特徴の一つとして挙げられるのが、地域密着型グループが多いこと。ちなみにウィキペディアの「ご当地アイドル」のページに掲載されているグループ数は113に及びます。これらのグループは、地元の劇場/ライブハウスで定期的に公演し、商店街のイベントやお祭りなどに出演、地元企業とタイアップしたり、名産品の広報大使を務めるなどの活動を続けています。
地域の活性化といえば、全国のACPC加盟社とも目指す方向は同じだといえるでしょう。事実、エリアプロモーターの中には、ご当地アイドルに何らかの形で協力している例が多く、各社の活動フィールドがそれにより広がりつつあります。愛媛県・松山市でライブハウスやインディーズ・レーベルを展開する伊賀千晃さんが、総合プロデューサーとして「ひめキュンフルーツ缶」(以下、ひめキュン)を手掛け始めたのは2010年。愛媛県を含む四国全域を業務エリアとするデュークは、自社レーベルであるduke recordsでひめキュンのCD発売(伊賀さんが代表を務めるMAD MAGAZINE RECORDSと共同リリース)し、このプロジェクトを支援してきました。ガンジンルー、ジャパハリネットのプロデューサーとしても知られる伊賀さんに、アイドルグループを手掛け始めた理由、ひめキュンの存在が地元にもたらす効果を、duke recordsでひめキュンを担当する寺坂淳一さんも同席の上、お聞きしました。
人を逆流させるアイドル
ご当地アイドル、ローカルアイドル……様々な呼び方がされていますが、ひめキュンのプロデューサーとしては、そのカテゴリー自体はどのようにお考えですか。
伊賀:僕自身はご当地アイドルと思って作っていません。バンドであれば、日本全国で色々なバンドが活動しているのは当たり前のことですし、感覚的には変わりないです。
アイドルという形態をとることによって、地元での活動がしやすくなる面はありますか。
伊賀:それはあると思います。地方自治体や商店街のイベント、お祭りなどでも、声がかかりやすいと思います。バンドと違って、楽器もいらない、機材も少なくて済む。こちらは音源を持っていって、会場にはPAシステムがあればいい。お祭りの会場にも、PAの基本的なシステムはありますから。それとバンドより、やはり音楽的に耳ざわりがいいので、幅広い年齢層に受け入れられやすいですね。地元の商店街については、松山銀天街、大街道商店街、まつちかタウン商店街と提携させていただいていますが、例えばコマーシャルに出たり、銀天街では「ひめキュン・ショップ」を作って、そこに人が集まるようにしたり。こういった展開はアイドルならではでしょうね。
人が集まることによって、地元が活性化するという流れですね。
伊賀:松山から東京へ?ではなく、人の流れを逆流させたいんです。松山に面白いものがあれば、東京からも人が来るわけですから。定期公演でも、毎回30人くらいは全国からお客さんが来ています。
伊賀さんは、そもそもなぜ「次はアイドル」とお考えになったのでしょうか。
伊賀:運営している松山サロンキティのうち、1階がライブハウス、サロンキティで、5階はキティホールという椅子席のホールなんです。このホールに、あまり需要がなかったのですが、アイドルをメインにすればホームグラウンドとして使えるなと考えたのがきっかけです。もちろん、世の中の動きも見た上での発想ですけれど。定期公演が打てるのは、アイドルにとっては大事ですから、うちは自前のものがあるし、それを利用すれば、どこにも負けないアイドルができるかも知れないと。
僕らはプロとして音楽をずっとやってきましたが、一般的なアイドルを全く参考にせずに始めたので、ひめキュンは普通のアイドルっぽくないらしいです(笑)。でも、僕にとっては、バンドをプロデュースする時と変わらない姿勢で関わるのが王道であり、音楽的にしっかりしたものを作らなくては意味がないと思っています。
現状で何か問題点を感じていることはありますか。
伊賀:四国に関してはプロモーションも行き届いていると思いますが、東京、大阪、名古屋ではまだまだ足りないのも事実です。皆さんのお力を借りてプロモーションをしていかなくてはいけませんが、現段階でどこまでできるか試す意味でも、東京を含めたツアーを始めたところです。
そこで、デュークとの協力態勢が必要になってくると思いますが、デュークに望むのはどんなことでしょうか。
伊賀:ゼロから一緒に育てて欲しいということですね。売れてから参加するのは、誰にでもできることですから(笑)。僕らは恵まれていると思いますよ。デュークみたいな信頼関係がある会社と、一緒にプロジェクトを進めていくということは、とても大事だと思います。
寺坂:ジャパハリネットなどバンドを中心に、10年近く一緒にレーベルをやらせていただいている中で、最初「次はアイドル」ということになった時、正直、社内では「僕らにできるのか」という迷いもありました。ノウハウが全くない状態でしたので、逆に手伝わせていただいていいものかと。伊賀さんに制作の部分はすべてお任せしていますし、発想の面白さも信頼していますので、現状では何か違う切り口で、ひめキュンの存在を広げる作業をできればと思っています。
バンドでは、地力をつけていいライブをして動員を増やせば、CD売上もついてくるという発想でやっています。プロモーターという仕事をしている以上、アイドルであってもいいライブをすることは大事だと思います。ただ、今の時代で、しかもアイドルということで、違う考え方も必要になってくるでしょう。レーベルとして、いわゆるメジャーのセールス方法も参考にしつつ、流通をどこまで広げられるかという部分をお手伝いするのが僕らの仕事かなと。3枚のリリースがあった現段階では、やはりアイドルは東京での知名度をある程度高めないと、情報が全国レベルに広がらないということも感じ始めていて、東京でのインストア・イベントを積極的に展開し始めています。
コンサートプロモーターとしては、どのような発想が必要になってくるとお考えですか。
寺坂:初めての試みなので何が必要かも含めて、色々な方に教えてもらいながら日々勉強中です。現在、全国でプロモーターがアイドルのプロジェクトに関わっている例は多くなってきましたので、本来持っている全国のネットワークをうまく活かせればと思います。ただし、各エリアに温度差はありますので、何かいいきっかけを作った上でなければ、うまく連携がつながらない面もあるのではないでしょうか。