「世界のビッグツアーを日本に招聘し日本からの世界進出の拠点にもしたい」
撮影:宇都宮 輝
今年2月、世界最大の音楽企業グループ、Live Nation Entertainment Inc.(以下、Live Nation)と、ACPC加盟社であるクリエイティブマンプロダクション(以下、クリエイティブマン)による合同会社、LIVE NATION JAPANの設立が発表されました。Live Nationといえば、日本におけるコンサートプロモーターの役割だけではなく、傘下にチケット販売会社、マネージメント会社などを抱え、数々のビッグネーム・アーティストと「360度契約」を結ぶグローバル企業として知られており、このニュースの見出しだけで判断すると「黒船襲来」という言葉が思い浮かびます。実際には何を目指した新会社なのか?クリエイティブマンの清水直樹代表取締役社長にお話を伺いました。
日本拠点のアジア戦略
LIVE NATION JAPANが設立された背景には、世界の音楽市場のどんな現状があり、今回の新会社設立に至ったとお考えですか。
アジアをコントロールする拠点といえば、本来は香港ですが、音楽マーケットとしては大きくありません。日本の音楽産業の市場規模は事実上、世界のトップであるし、当然アジアにおいてもそうだと思います。ライブに関しても、僕は昨年、上海、北京、ソウル、台北などに行きましたが、現状ではどこも日本のやり方を参考にしている段階だという印象が残りました。各地域とも、日本のようにフェスティバルがあって、ツアーをきちんと組めるコンサートの在り方を目指しています。SUMMER SONIC、FUJI ROCK規模のフェスは、中国、韓国、台湾にはありませんので、日本のフェスが招聘したアーティストをピックアップしながら、自分達のフェスを作っている状況です。
そんな中で世界中にネットワークがあるLive Nationとしては、LIVE NATION KOREAとオーストラリアができ、中国やその他アジアにもブランチを置きつつ、やはり日本を起点にアジアやオセアニアのマーケット全体を視野に入れたい、さらにグローバルに広げていきたいという意志があるのは当然のことで、今回LIVE NATION JAPANの設立に至ったということですね。LIVE NATION JAPANはマネージング・ディレクターの竹下フランクが中心になって業務を行ない、弊社はそれに対して協力をするというスタンスです。日本のコンサートプロモーターであるクリエイティブマンの業務は、これまで同様、SUMMER SONICを始め様々なフェスも続けていきますし、内外のアーティストの各コンサートを手掛けていくことに変わりはありません。
ワールドツアーへの窓口
御社にとって、LIVE NATION JAPAN設立に参加するメリットはどこにあるのでしょう。
例えばここ数年、U2やマドンナのビッグツアーは、日本で実現していないんですよね。簡単にいえばプロダクションの規模が大きすぎて、採算がとれないことが主な原因だと思いますが、LIVE NATION JAPANができたことで、そういったツアーがよりスムーズに日本で開催される可能性が広がれば、オーディエンスにとっても、弊社にとっても大きなメリットだと思います。今までも、ポリスやU2の日本公演をバックアップしていましたが、それをより明確な形で手掛けられるように新会社を設立して、LIVE NATION JAPANとクリエイティブマンがともにデベロップしていくという方向性を考えています。逆にSUMMER SONICにLIVE NATION JAPANが協力態勢をとり、Live Nationの契約アーティストがブッキングに入ってくることもあるでしょう。
また、LIVE NATION KOREAでは、BIGBANGのツアーをマネージメントから買い取って、世界展開を計画していますが、今後は日本のアーティストでも同様のことをやれる可能性が出てきます。K-POPは自国のマーケットだけではなく、日本とアメリカ、ヨーロッパまで見据えてビジネスをしていますが、日本もトップとはいえ、国内マーケットが縮小しているのは事実ですので、世界に進出することが必要になってきます。そのための拠点としても、LIVE NATION JAPANを機能させていきたいですね。
Live Nationは360度契約という面が注目され、すべてを自社でコントロールする印象を持たれていましたが、案件によっては同業他社とも積極的に手を組んでいくこともあり得るわけですね。
現状から変わらなければ実現が難しい仕事を、可能にするために組むのであれば、お互いにとってもメリットがあるし、それによってさらに新しい何かを生み出せるのであれば、同じプロモーターが複数関わることになっても一緒に仕事ができるはずですよね。今回の件も、競合することのデメリットを考えるのではなく、よりマーケットを活性化させるための選択だと思います。
「今、見たい」を確実に
海外アーティストの招聘に絞って考えると、これまではLive Nationがグローバルな範囲でブッキング権を持つアーティストでも、日本については「別枠」というか、独自のパワーバランスが守られていた面があったと思います。それがLIVE NATION JAPANの誕生によって変化していくこともあるのでしょうか。
例えばLIVE NATION JAPANが100%外資系の企業として日本に乗り込んできたり、従来のコンサートプロモーターではない社と組んだりしたら、そういったこともあり得たと思います。洋楽、邦楽問わず、アーティストの取り扱いについても、既存の枠組に外から参入していくことになりますので。弊社が参加した以上は、日本のコンサート・ビジネスの枠組、流れを充分理解した上でスタートしますので、それを無視した進め方をすることはありません。ただし、フェスティバルのブッキングについては、今までも毎年ゼロからのスタートでしたので、SUMMER SONICに出演したアーティストが次の年は他のフェスに出たり、その逆の例も当然あるでしょうね。
今後のライブ・エンタテインメント全般の展望、そしてその中におけるLIVE NATION JAPANの役割についてお聞かせください。
CDの売上が落ちる一方、ライブは市場をキープしていることで、音楽業界でも「これからはコンサート・ビジネス」といわれ続けていますが、実際に携わっている人間にとっては「いや、そんなにラクなものではないです」ということは皆さん認識されていますよね(笑)。決して楽観的に考えられるわけではありません。結局のところ、僕らの役割は、オーディエンスが今、見たいと思っているコンサートを確実に提供することですから、LIVE NATION JAPANが手掛ける第1弾が、5月のレディー・ガガの公演だということは、そういった意味でも価値があるのではないでしょうか。今後も旬のアーティストを、世界とのタイムラグがなく提供していく?それが第一のLIVE NATION JAPANの存在意義になると思います。