会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

北の大地でフェスを続けるために、毎年変わること、ずっと変わらないこと

この空、この見晴らし。今年も開放感に溢れていたRISING SUN ROCK FESTIVALの会場 撮影/原田直樹

限りなく広がる平原と空。美味しい空気と地元の名産。そして、そこに最高の音楽が響きわたることから生まれる、圧倒的な開放感。RISING SUN ROCK FESTIVAL(以下、ライジング)の魅力は、やはり開催地が北海道であることに根ざしているのは間違いありません。しかし、考えてみれば、主に東京から来る出演アーティスト、そして全国から足を運ぶ観客にとって、北海道は決して地の利がいい場所ではなく、フェスの開催地としてはマイナス面も多いはず。スタートしてから13年目にあたる今年も、8月12・13日に無事開催を終え、運営の難しさを感じさせないライジング、そして主催会社であるウエスには、フェスを継続させるための「何か」があるのかもしれません。その「何か」を探るため、ライジングを統括するウエスの取締役チーフプロデューサー・西木基司さんにお話を伺いました。

「開催は当たり前」ではない

北海道は震災によって大きな影響は受けなかったと思いますが、今年の開催への迷いはありましたか。

震災があった3月の段階では、開催時期の8月に日本がどういう状況になっているのか、まだ誰にもわかりませんでしたが、やはりこんな時だからこそ、音楽の力が必要になるはずだと思いました。直接的な効果はないかもしれませんが、人の心に寄り添うことができるものですし、それによって元気になったり、笑顔になったり、勇気をもらえたり……素晴らしい音楽が日々の生活の励みになるということは、絶対にありますよね。だから今年のライジングを、いつもと何も変わらず、例年と同じように開催することが、僕達にできることじゃないかと。お客さんが毎年と変わらない気持ちで足を運んでくれて、気負わずにライブに触れてくれたら、きっと何かしらのメッセージは届くだろうとも思いましたし。
震災のことは別にして、ライジングを担当しているチームでは毎年、「来年は開催したほうがいいのか、しないほうがいいのか。開催するのであれば、どうしたらいいのか」と、年末くらいから話し合いをしています。「開催するのが当たり前」とは考えていません。フェスはルーティンになってしまったらダメだと思います。13年続けてきたことが当たり前と思った瞬間に、フェス独特の面白さがなくなってしまう気がしますね。開催の決定は毎年、元旦に発表するんですが、コアなライジング・ファンの方々は、まるで合格発表のように(笑)ドキドキして待ってくださっているみたいで。開催する側も同じ目線を保っていないと、お客さんの気持ちも離れてしまうんじゃないでしょうか。

ブッキング面でのポイントは?

ライジングをひと言で表現するなら「音楽を聞きながら朝陽を見るフェス」なんです。だから「朝陽を迎える時にどんな音楽が聞きたいのか」をまず考えて、そこから7つのステージ、それぞれのコンセプトに合わせたストーリーを考える。具体的にいえば「どの時間帯に、誰の、どんな曲を聞きたいのか」ということになります。だから、ライジングには、いわゆるヘッドライナーがいないんですよ。実際にオファーをする時も、そのアーティストのライブを見て、自分の頭の中にあるイメージを膨らませてから、「この時間に、こういうステージで、この曲を聞きたいので、ぜひ出演してください」とお願いします。もともと、前任のプロデューサーだった山本(博之)さんが14年前に、thee michelle gun elephantのマネージャーだった能野(哲彦)さんと、BLANKEY JET CITYのマネージャーだった藤井(努)さんと「何もない北海道の真っ平らな原野で、朝まで爆音でいい音楽を聞いたら最高だよね」「それで朝陽なんか見られたら、もっと最高だよね」と話したことから始まっているフェスですから、そこを変えてしまうとライジングではなくなってしまうと思っています。

統括プロデューサーの立場になられてから3年経ちましたが、就任当初、周囲の反応はどうでしたか。

もともと毎年、出演アーティストの所属プロダクションに対する実務的な制作の窓口を1人で担当していましたし、ずっと前任者のそばにいてサポートはしていましたので、皆さんが「えっ、誰? 西木?」と違和感を感じることは、たぶんなかったと思います。いや、実は心配している人もいたのかな(笑)。
これは僕自身がどうこうということではなく、単純にフェスの中心となる人間が世代交代していくことは、いいことだと思います。やっぱりフェスも10年経てば、お客さんの世代も入れ替わっていくことは確かですし。以前からライジングでは、ブッキングについても20代、30代のスタッフの意見を取り入れているんです。社内全員からアンケートを取って、他社で扱っているアーティストを含め自分が観客だったらライジングで何が見たいのか、見るのであれば、どの時間の、どのステージで見たいのかという意見を集めています。道内の他社の方の意見や、地元の媒体の若いAD、CD店のアルバイトの意見なども参考にしていますしね。もちろん最後は僕がライブを見させていただいて最終決定するのですが、ライジングのプランニングが100%自分の発案かといえば、そうではないと思います。

集中する単独ツアー

アーティスト人気が高いのもライジングの特徴です。

アーティストの方々にとっても、夏の北海道に行くというのは、やはり開放感があるんじゃないでしょうか。それとアーティストがリラックスできるスペースを、きちんと作ったことも大きいと思います。初年度から変わっていないことですが、このスペースにはアーティストと、アーティストがステージで演奏するにあたって必要なスタッフしか入れないようになっているんです。一切の写真撮影は禁止ですし、メディア関係の方々には申し訳ないですが、入場をお断りしています。聖域といったらオーバーですが、そこでジンギスカンを食べたり、お酒を飲んだりすることで、アーティスト同士の交流が生まれるんですよ。ホントに挨拶大会のようになって、「東京に帰ってから一緒にレコーディングしようよ」なんてこともありますし、飲んだ勢いで(笑)、そのままセッションになったことも過去にはありました。客席に出たとしても、ライジングのお客さんは「お疲れさまでした」と声をかける人はいても、群がってサインを求めたりはしないんです。だからアーティストも自由に行動できるので、そういった居心地のいい空間を、楽しんでいただけているのかもしれません。

夏フェスが定着したことで、もし問題点も出てきているとするなら、どんな点だとお考えですか。

インタビューに応えてくださった、ウエスの取締役チーフプロデューサー(CREATIVE1 コンサート制作)・西木 基司さん

1年間のライブのサイクルが、固定化してしまったことですね。夏はフェスに出て、秋にアルバムをリリースして、11月から単独ツアー、年明けから楽曲制作に入りつつ、春からまた動き出して、翌年の夏フェス・シーズンが到来するという感じで。結果的に、北海道であれば11月から1月ぐらいにツアーでやって来る割合が、ものすごく高くなっているんです。皆が集中することによって、動員が分散してしまうという問題点が出てきています。こうなってしまったのは、アーティストの年間スケジュールを夏フェスから組み立てていくようになったことも原因ですので、フェスを主催するプロモーター側にも当然責任はあると思います。本来ならフェスへの出演と、そのアーティストの単独ツアーのプロモーションをつなげることも、僕達の役割ですから。それはお客さんに対しても申し訳ないなあという気持ちがありますね。
一方で、ちゃんとプロモーションにつながる例があることも確かなんです。昨年、それまでもずっとオファーし続けていた山下達郎さんに出演していただけたことは、本当にありがたいことだったのですが、終わったあとの9月から札幌のCD店で達郎さんのベスト盤が品切れるという現象が起きました。名前を知っていても、CDを聞いたことがなかった北海道の若いユーザーが、ライジングで達郎さんのステージを見て「ああ、やっぱり本物はすごい」と思ってくれたとしたら、うれしいですよね。ステージで音楽の力を発揮できる人の素晴らしさは、ちゃんとユーザーに届くということが、その出来事でわかりました。


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