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小室丈典(ホットスタッフ・プロモーション)

ACPCの役員だけではなく、広く加盟社の方々にも寄稿いただく「VOICE」のコーナー。今回、原稿を執筆いただいたのはホットスタッフ・プロモーションの小室丈典さん。ユーザーにコンサートを提供する際、自分はどんな立場で臨むのか。様々な音楽の楽しみ方がある中で、コンサートにはどんなアドバンテージがあるのか—プロモーターとしてのマニフェストを綴ってくださいました。

例えば、食べ物は直接口に入れるものです。その時々で、最も旬なものを食すのが美味とされています。旬の食材を最高の状態で口にした時、人は衝撃を受け、五感をフルに使い記憶に焼き付けることができますし、料理を提供する側にとっては、それができた時が最高の仕事だと言えるでしょう。

目と耳で感じる音楽、特にコンサートにも全く同様のことが言えると思います。ユーザーに一番の旬な状態でコンサートを提供し、情報発信をすることこそがプロモーターにとって最大の役割だと思います。

アーティストとオーディエンスが一体となった会場を目の当たりにして思うのが「コンサートはコピーできない」ということです。月並みな表現かもしれませんが、私はここにコンサートの大きな強みがあると思いますし、今後のコンサート・ビジネスの活路もあると考えています。人と人を結ぶものとして、デジタルなツールがもてはやされていますが、便利な反面、同じような出会いが溢れ、あまりに簡単すぎて味気なかったりもします。やはり「コピーできない」アナログ感覚が一番大切であり、ブレてはいけない要素だと思います。

「新しい常識」の共有

昨今、音楽業界においてはマイナス要因ばかりが叫ばれています。しかし、厳しいのは音楽ソフトの売り上げであり、コンサートだけで言えば数字上は右肩上がりの成長を遂げています。だからと言って、音楽業界がコンサート・ビジネス一辺倒になったら、どうなるでしょうか? コンサートの本数はさらに増えますが、一本一本のステージは乱雑になり、よりターゲットは細分化されて絞りづらくなり、今まで保たれていた市場の均衡は次第に崩れ始めるでしょう。コンサート業界全体の利益はプラスになるかもしれませんが、ユーザー側からすると、複雑でアクセスしにくいものへと変化してしまうのではないでしょうか?

かつては、アーティスト側、プロモーター側からの一方通行の情報発信が主で、ユーザーは受け手としてのみ存在していました。その後、デジタル化が音楽との関わり方を変え、両者がともに送り手であり、受け手でもあるという対等な関係になりました。ユーザーに情報選択の自由がもたらされた分、プロモーター側はユーザーの欲求を見抜く力をより磨かなくてはいけない時代になったと言えます。一方で、ユーザーとプロモーターがお互いに情報交換する機会が増えれば、コンサートの価値を上げる一つの要因にもなると思います。このような「新しい常識」をどのようにユーザーと共有していくかが、これからのプロモーターとって大事な役割の一つになるのではないでしょうか。

ユーザーの視点を忘れない

日頃、私はコンサート会場でユーザーと一番近い距離で仕事をしています。プロモーターとして情報を発信するだけでなく、ユーザーにも教わり、学び、反省し、次に活かします。インプットとアウトプットを繰り返すことで、気付かされる点も現場には数多くあります。

また、私は1人の観客としても、コンサートはそこでしか味わえない最高の時間を演出してくれるものだと思っています。プロモーターとしても、まずは自分自身が楽しむこと、ユーザーの視点を忘れないこと、常に世の中にアンテナを張り、多角的なプロモーションを行なうことを心がけ、日々邁進していきたいと思います。

小室丈典プロフィール

こむろ とものり
1976年9月3日生まれ。
2002年、ホットスタッフ・プロモーション入社。
現在、営業制作部に所属。


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