会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

自分のためではない取り組みも
ちゃんと自分に帰ってくる、栄養になる

取材・構成:君塚太
撮影:小山昭人(FACE)
撮影協力:西麻布 萬
収録日:2024年6月10日

コンサートやフェスの開催は、自然災害の影響を大きく受けることもあり、環境問題と無縁ではいられません。アメリカでは環境問題への取り組みを積極的に行うスタジアムが誕生し、ACPCでも令和5年度の人材育成研修会を「農と食、アートと自然。いのちのてざわり。」をテーマに掲げるサステナブルファーム&パーク、木更津KURKKU FIELDSにて行いました。今号ではKURKKU FIELDSの総合プロデューサー、小林武史さんをお招きし、2003年のap bankの立ち上げ以前から小林さんが意識していた音楽と社会の関わり、ap bankやap bank fesから生まれた思いの「実践の場」だというKURKKU FIELDSが目指すものを、中西健夫ACPC会長がお聞きしました。

9.11〜ap bank前史

中西:小林さんと初めてお話しさせていただいたのは、ちょうど30年くらい前でした。

KURKKU FIELDSではいい感じで
さまよってもらいたいと思います。
小林武史
音楽プロデューサー

小林:Mr.Childrenの4枚目のアルバム『Atomic Heart』(1994年)のタイミングでしたよね。

中西:渋谷の東急のスタジオで試聴会があって、小林さん曰く「ライブを意識してつくったアルバムだ」と。ライブを意識したアルバムという発想が、当時はあまりなかったこともあり、その言葉が強く印象に残りました。

小林:中西さんだけじゃなくて、全国のコンサートプロモーターの皆さんにも集まっていただいて、色々とご説明しましたね。デビューから彼らのプロデュースは続けていましたが、3枚目くらいまでは清潔感のある、初々しさが魅力みたいな面もあったんです。4枚目ではプログレッシブな要素も強くして、ある種のスケール感がある、器の大きな伝え方を意識し始めたんです。

中西:確かにあのアルバムが出たあたりから、急激にライブにシフトして、スケールも大きくなっていきましたよね。

小林:当時は櫻井(和寿)くんをはじめ、メンバーも相当こだわっていました。『Atomic Heart』のツアーでは、ライブを2つに分けたり、球場ツアー(STADIUM TOUR -Hounen Mansaku- 夏祭り1995 空[ku:])もやりましたし。Act Against AIDSでは桑田(佳祐)さんと櫻井くんの「奇跡の地球(ほし)」(95年/桑田佳祐&Mr.Children名義)も生まれて、しばらくすると9.11(2001年/アメリカ同時多発テロ事件)が起きました。その後、日本人のアーティストが社会的な出来事との関わりをどう描いていくのかという意識が強くなり、ap bankに向かう流れができていきました。

中西:9.11の時、小林さんはニューヨーク在住だったこともあり、よりリアルな体験として受け止めたわけですよね。日本に帰ってこられた時にお会いして、9.11のことを真剣に語ってらっしゃったことをよく憶えています。

小林:僕の兄は坂本龍一さんより少しだけ下の年齢で、学生運動をやっていた世代なんです。そういう背中を見て育ってきたので影響は受けていると思います。一方で直接的に政治に訴えかける活動をしたいというより、自分達の世代には何か別のやり方があるんじゃないかという気持ちもあって、特に日本の音楽シーンに身を置いている立場としては、どういう方法があるのだろうかと模索するような感じでした。

中西:社会情勢に呼応するような音楽活動を桑田さんと始めたのはAct Against AIDSが最初ですか。

小林:中国の天安門事件(89年)に対するアクションとして、その3年後にスーパー・チンパンジーというバンドを桑田さんとやっているんです。僕とギターの小倉(博和)くん、佐橋(佳幸)くんなどが参加して、ドラムは全曲ではないですがARBのキースさんに叩いていただいて。日清パワーステーションで洋楽のカバーのライブ、アコースティック・レボリューションをやりました。その後、中国へある番組で行って、ゲリラ的にライブを行いましたね。この時は女装したり、冗談めかしたタイトルの曲だったり、桑田さんの多芸な部分が前面に出たような活動でしたが、この時の経験は自分としては大きかったですね。中国にもの申すというより、「とにかくまず仲よくしよう」という意図で、食事会に参加したり、琵琶奏者の方と小倉くんが一緒に演奏したり。Act Against AIDSの時も、95年には日本のみならず桑田さんとコンパクトなバンドでタイへ行ったり、台湾にMr.Childrenも一緒に行ったりもしました。なかなか大変だったと思いますが、何度もノックして、なんとか仲よくするための表現で見つけようとしていたことが、自分にとっても貴重な体験でした。


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