今号の中西健夫ACPC会長連載対談では、中西会長と日本音楽制作者連盟の野村達矢理事長が「キャリア・アーティストのアーカイブ」のイベント化について語り、洋楽ではローリング・ストーンズ、デヴィッド・ボウイ、邦楽では嵐、安室奈美恵の展示会に触れています。こういった企画は「コンサートプロモーターの歴史」のイベント化でも可能だと証明した例が、昨年から今年にかけて洋楽、邦楽ともに生まれました。
洋楽では、3月8日から31日にかけて有楽町マルイ特設会場にて開催され、延べ15,500人が来場したウドー音楽事務所50周年記念展「UDO 50th Anniversary Special Exhibition 海外アーティスト招聘の軌跡」。同展は1967年の設立以降、数々の海外アーティストを招聘してきたウドー音楽事務所の50年以上に及ぶ歴史を、当時の朝日新聞の記事、貴重なポスター、チケット、写真とともに振り返る年表で案内しながら、伝説のギタリスト達から贈呈されたギター、ステージ衣装、スタッフジャンパー、ゴールドディスク、ツアーパスなどの「現物」を展示したもの。さらにはギターの試奏会(抽選で選ばれた来場者のみ)、KISSのメイク体験コーナー、トークショーといったイベントも開催。「会社の歴史がそのままエンタテインメントになる」という稀有な例になりましたが、それは展示物が来場者の「あの日、あの時」の思い出とリンクするように、構成上の配慮がされていたから実現したのだと思われます。
邦楽では、設立40周年を迎えたホットスタッフ・プロモーションがライブと出版物をうまく連動させて、自らの歩みを表現しました。予想外の、またはありそうでなかった出演アーティストの顔合わせの連続になった40周年記念ライブ「MASAKA」(昨年10月26~28日、日本武道館)のタイミングに合わせて、マガジンハウスよりムック「40th Anniversary Magazine HOT STUFF HISTORY」を刊行。今年に入って開催された片柳アリーナ(6月23日)、Zepp Tokyo(7月12、13日)での同じく記念公演では、ムック第2弾が会場限定で販売&配布されました。Charと松任谷由実の共演となった片柳アリーナでの公演では、ムックの対談ページのメイキング映像がオープニングで流され、幕が上がると対談時と同じ衣装を身に付けた2人がステージに登場。才能を認め合った同世代のミュージシャン同士ありながら、共演が少なかった2人の距離感と、そこにホットスタッフの歴史がどう関わってきたかがムックとライブで立体的に伝わる仕掛けが施されていました。
アーカイブを展示会や出版物の形で表現するには、一定のボリュームが必要になりますが、各エリアのプロモーターの中にはそれだけの歴史を持つ社が少なくありません。今後は全国各地に成功例が広がる可能性もあるはずです。