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私がこの仕事に就いたきっかけ

北岡良太(サウンドクリエーター)

ACPCの役員だけではなく、広く加盟社の方々にも寄稿いただく「VOICE」のコーナー。今回、原稿を執筆いただいたのはサウンドクリエーターの北岡良太さん。皆さんにもコンサートプロモーター、イベンターという仕事に就いたきっかけがあると思いますが、それが北岡さんにとっては「衝撃の原点」でした。プロへの第一歩を印した「現場体験」を本当に活き活きと描いてくださっています。

私は京都の大学を卒業後、サウンドクリエーターに入社し、2010年の4月で6年目を迎えます。私が「イベンター」という職業に就いてから5年の月日が経とうとしています。

そもそも私は、学生時代から特に音楽の仕事をしたいという願望はなく日々の生活を送っていました。しかし、今関われているこの仕事は自分自身にとって、とても魅力に溢れた空間であり、毎日が刺激に溢れています。この5年間の経験は、自身のこれまでの人生においても大きな糧になっていくと実感しています。そんな私がこの仕事に就くきっかけとなった、転機とも言える体験について書かせていただこうと思います。

大学4回生の頃、何を目指すわけでもなく、卒業後の進路を全く考えずに過ごしていた私に、ある知人から突然「イベンターのアルバイトに行ってみない? 君のようなタイプの人間にとっては良い仕事かも知れないよ」とお誘いを受けました。イベンターが何をする仕事かも分からず、当日のコンサート現場と集合時間だけを告げられ、言われた通りに現場へ向かいました。この日に訪れたコンサート会場は、「高台寺」という京都のお寺でした。今考えると、関西のイベンターならではともいえる現場であり、イベンターの仕事を初めて経験する私にとっては特別すぎる環境でした。学生時代は飲食店の厨房でアルバイトをしていた私でしたが、もちろん初めてのコンサート現場で何をできるわけでもなく、その場にいる人たちをただ観察し、アルバイトに来ている同世代の学生たちのお手伝いを僅かながらできるという状況でした。朝早くからトラックに積まれた機材を降ろし、寺の境内にステージが設営され、スピーカーや照明と思われる機材がどんどん組み立てられ、境内の外ではたくさんのテントが設営され、机や椅子が並べられていきます。正午頃になり、ようやく一通りの作業が落ち着いたと思っていると、携帯電話で忙しく話をする人や、一つのパソコンの画面を何人もの人が囲み、ミーティングを行っています。そこにいる全員が、ほとんど休むこともなく何かを進めていきます。幸いにも好天で、日没が近づくに連れてどんどんお客さんが集まってきます。そして、日が沈んだ頃にライブがスタートしました。ライブが始まった瞬間、自分の背中は凍りつき、全く身動きできない状態になっていました。日本の伝統的な建築物が見事にライトアップされ、これまでに見たことも触れたこともない、絵と音の空間が描かれていました。客席は静まり返り、お客さんの視線は全てステージへ向けられ、涙を流す人もたくさんいました。ライブはあっという間に終了し、お客さんは高揚感溢れる足取りでお寺の外へと帰っていきます。機材やテントが片付けられ、気付けばもとのお寺の光景へと戻っていました。

当時の私にとって、この日行われたことの全てが一瞬の出来事のようでした。一日中ぼんやりと過ごしていたはずなのに、何か大きなものが私の心の中に残り、心臓が痺れるような衝撃の体験となりました。全ての作業が終了し、私にも作業終了が告げられ帰宅しようと挨拶をしていると、当日の現場責任者の方に声をかけられました。「いつか一緒に仕事をしよう」。この日その方と交わした唯一の言葉でした。このコンサート現場を経験した日を境に、自分の中で何かが大きく変わり、卒業後の進路はイベンターを志望。限られた残りの学生生活はライブと音楽漬けの日々を過ごしました。

当時、京都のコンサート現場で感じた衝撃は今でも鮮明に残っています。今ではその衝撃を自分がお客さんに提供する立場にいます。人の心を動かすライブには、アーティストやライブに関わる全てのスタッフの綿密な計算、そしてライブだからこそ起こりうる計算外の化学反応。たった一つのきっかけで、感動が何倍にも大きくなる瞬間。私もイベンターとして感動の一端を担えるよう、日々感覚を研ぎすまし、ライブと向き合う姿勢を貫き、その一瞬一瞬が賞味期限であるライブをこれからも大切に、楽しみながら関わっていこうと思います。

「いつか一緒に」と声をかけてくれた方は、今でも私の上司です。最後になりますが、ライブを大切にしながらも、これまでの出会い、そしてこれからの新しい出会い、音楽を軸に繋がり続けていく全ての人に感謝いたします。

北岡良太プロフィール

きたおか りょうた
1982年7月14日生まれ。2004年、サウンドクリエーター入社。現在、制作部所属。


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