弊害と危機感の広がり
チケットの不正売買を巡る問題は、長年ライブ・エンタテインメント産業とユーザーを悩ませてきました。ダフ屋行為は各地の「迷惑防止条例」で禁止されており、ライブに携わる事業者や警察は、時代ごとに転売対策と取り締まりを行ってきました。さらに近年は転売サイトの出現で、インターネットを介したダフ屋行為が横行し、この問題はより広範囲にわたっています。ユーザー、ライブ市場や事業者などに対する弊害については、下の一覧にまとめています。
ACPCでは現在、チケット不正売買対策として、OTMマークの作成と掲示によるユーザーへの啓蒙活動、警視庁との転売対策協定の締結および協議の実施、プロモーター・プレイガイド・プロダクション各社との対策協議の実施、TV・新聞・雑誌・Webなどへの取材協力を行っています。この問題への関心は社会全般でも高まっており、入場時のIDチェックや顔認証技術、チケットの電子化などの転売防止策がメディアでとり上げられる機会も増えています。
欧米での転売対策事例
今後の問題への取り組みに向けて、海外における転売対策事例の調査研究も進めています。
現時点での欧米の状況を記すと、アメリカではStubHub、Ticketmasterなどによる転売サービスで、コンサートやスポーツなどのチケット転売が一般化しているものの、16の州ではチケットの高額転売が州法により禁止・規制されています。ネット上のチケット転売も、ニューヨークやロードアイランド、イリノイ、ノースカロライナ、ケンタッキーなどの州で規制されています。
イギリスでは1994年の「Criminal Justice Act」法制定で、サッカーチケットの許可なき転売が違法とされました。2015年5月の「Consumer Rights Act」の法改正では、コンサートなどのチケットの転売には座席番号・額面価格などの明示が義務化されています。さらに同国の音楽業界は、転売サイトを悪用したユーザー搾取の抜本的な解消をめざし、2015年の11月、政府に共同書簡を提出。署名者はコールドプレイ、エルトン・ジョン、ワン・ダイレクション、エド・シーラン、レディオヘッドほか多数のアーティスト、マネージメント、プロモーターが名を連ねました。
その後、政府は2016年の5月末、「オンライン上でのチケット転売に関する見解」を発表。業界が求める高額転売の法規制は認めなかったものの、チケット販売会社に対する本人確認の厳格化、およびチケット転売業者への法令遵守を命じました。転売業者に対しては、法令違反の際のペナルティーも検討されています。
チケット不正売買の問題について、これからも本誌でご報告していきます。
不正売買で起きる弊害
ユーザーの被害
● インターネット上で不正なプログラムを用いたチケット大量購入のケースがあり、ファンが正当な手段でチケットを手に入れられなくなる
● チケット転売サイトを経由することで、個人でも容易にネットダフ屋行為が可能
● 高額転売によるユーザーの搾取
● ダフ屋と転売サイト事業者はノーリスクで利益を得られるが、ユーザーは転売チケット購入のリスク(詐欺行為、公演の延期や中止、転売チケットでの入場不可)を一方的に負ってしまう
● 所得の低い若年層ユーザーがライブ市場から閉め出されたり、不正な行為で金銭を取得しようとして、犯罪に巻き込まれる恐れも
ライブ市場と事業者への影響
● 転売の利益は公演の主催者と一切無関係
● 正当な価格や手段でライブに参加できないユーザーの不公平感とライブ離れ
● ユーザー搾取に伴う、参加可能な公演数やグッズ購入額などの減少
● ライブの市場規模の縮小と、新たなアーティストの発掘・育成への投資額減少が招く創造サイクルの弱体化
その他の問題
● 転売の利益は所得申告されず、納税がなされていない可能性が高い