東京オリンピック・パラリンピックに向けて、劇場・ホールなど大型集会施設の閉鎖・建替・改修が重なり、特に首都圏域におけるコンサートや舞台芸術の上演場所の確保が難しくなる「2016年問題」。本誌でも度々取り上げ、ここ数年は業界内で深刻な問題として語られてきましたが、広く一般にはそのリアリティが伝わっていない面がありました。そんな状況を受け、ジャンルを越えたアーティスト・実演家が一堂に会した「劇場・ホール2016年問題・記者会見」が開かれました。
登壇者のうち、まず野村萬さん(能楽師/日本芸能実演家団体協議会会長)が芸団協会長の立場から「実演家にとって劇場は大変重要です。その劇場が危機的状況にあることを広くお伝えし、現状を国全体の問題として位置づけていただきたい」と会見を開いた意図を説明。続いて山口一郎さん(サカナクション)が「音楽にはコンサート会場でしか体感できない感動があります。ところが現在は会場確保が難しい状況にあり、このままだと音楽を愛する人達と出会う機会が失われてしまう危機感を持っています」と、全国ツアー中のアーティストの実感を語りました。斎藤友佳理さん(バレエダンサー・東京バレエ団芸術監督)は「五反田ゆうぽうとホールを始め、総合芸術であるバレエが上演できる条件を備えた会場の閉鎖が次々に決まっています。舞台への夢を持ったバレエダンサーの子供達の発表の場もなくなりつつあります」と述べ、国や行政、民間企業からの支援を訴えました。川瀬順輔さん(琴古流尺八演奏家/日本三曲協会会長)は「演奏の場がなくなるということは伝統文化が失われるということ。邦楽に取り組む若い人が減っている中、世界に向けて日本の文化を披露する場をなんとかして守りたい」と伝統文化の継承に触れました。最後に影山ヒロノブさん(JAM Project)からは「日本のアニソンは世界中で愛されていますが、音楽をライブで聴きたいという気持ちは世界共通だと思います。アーティスト側だけではなく、観客の視点も加えた意見交換をぜひお願いします」と長いキャリアを伺わせる提言がありました(以上、発言順。写真も左から同様の順)。
ポピュラー・ミュージックから伝統文化、舞台芸術までが危機的状況に陥っている現実を、アーティスト・実演家が自らの口で語ったインパクトはやはり大きく、この会見以降、昨年末から「2016年」に突入した今年の年初まで、この問題が一気に各メディアで取り上げられるようになりました。状況が好転するまでにはまだまだ高いハードルが残されていますが、一般層へのアピールという意味では大きな第一歩になったのではないでしょうか。