同時多発テロ以降、パリのコンサートに変化は起きたのか
パリの同時多発テロではコンサートホールのル・バタクラン(収容人数1,500名)も襲撃され、89名が犠牲となり、200名以上が負傷しました。世界を揺るがしたこの事件以降、コンサートの警備などを巡り、多くの発表や報道がなされています。
事件直後、ライブ・ネーションやAEGライブなど、大手プロモーター各社は公演会場のセキュリティ強化を発表。警備ポリシーと手順を更新し、国や州、各地方の司法機関との情報共有や、諜報機関・コンサルタントとの協同を緊密に行うようです。アメリカの報道では、マネージメントの「会場入り口に金属探知機を導入してほしい」という声を採り上げ、関係者(匿名)もそれは検討段階にあることを認めていますが、一方で、たとえ金属探知機や警備員が会場に配置されていても、今回の襲撃は防げなかったであろうこと、にわかな警備の増強では〈コンサートの危険性を煽りたがる人々〉をかえって勢いづかせるのではないか、といった論調も業界内にある模様です。
アメリカでは〈9.11〉以降、大会場でのイベントにおける金属探知機の検査やボディチェック、制服警官の配備が一般化されましたが、機材や人員のコストもあり、小規模会場やクラブでの同等の警備は困難です。パリのテロで襲撃されたサッカースタジアムでは、平時より来場者に手荷物検査、金属探知機での検査、ボディチェックを実施していましたが、ル・バタクランの基本的な警備は手荷物検査程度だったことも、結果的には犠牲を大きくしてしまったと言えそうです。
とはいえ、サッカー場や空港とは異なり、公演ごと会場ごとに条件も環境も変わるライブ会場の警備のあり方や、警備コストを誰がどう負担するか、ツアーの契約に際してテロを原因とするキャンセルをどう取り扱うかなど、多くの議論がなされています。
プロディス(フランスの音楽系企業やプロデューサーから成る業界団体)によると、事件直後にパリ市内のコンサートチケットの売り上げは前年比20~25%まで下落したものの、徐々に回復し、2016年以降は例年の水準に戻ると見込まれています。フランスでは事件の1か月後をめどに、多くのコンサートが開かれました。テロの脅威に屈することなく、ライブ・エンタテインメントを楽しもうという機運が高まっています。どの会場も厳格な安全規制に基づき、警備を増員し、警察とも連携して公演を行っているそうです。
そしてプロディスの支援要請を受けたフランス文化・通信相は、プロモーターや会場、アーティストを支援するために400万ユーロの緊急基金の拠出を発表しました。またプロディスは会員の340社に、2015年12月分のチケット売上1枚ごとに1ユーロを、テロ犠牲者と遺族の援助基金に寄付することを呼びかけています。