観客・制作側の目線
テレビ局とライブ・エンタテインメントの関わりは、間違いなく以前より深くなっています。名義主催や後援によるサポートだけではなく、各局がフェスやイベントを自ら積極的に企画し、ライブ・スペースを運営する時代になりました。そして、テレビ朝日がACPCの正会員であることも、そういった傾向の表れといえるでしょう。テレビ朝日の総合ビジネス局イベント事業担当局長・倉林敦夫さんに、同局のライブへの取り組みを象徴する「EX THEATER ROPPONGI」(以下、EXシアター/2013年11月オープン)のお話を中心に、テレビ局がライブというフィールドで果たそうとしている役割を伺いました。(撮影:小嶋秀雄)
倉林:弊社の総合ビジネス局は、放送事業以外のビジネスを集約させたセクションで、昔の呼び方でいえば事業局です。民放各局も同様ですが、事業局の柱は以前からコンサート、催事、舞台でした。現在、弊社でも年間200本くらい主催や後援という形で手がけています。そんな中でライブ・エンタテインメントに絞ってお話すれば、長い歴史がある音楽番組「ミュージックステーション」があり、事業としてサマーソニックやフジロックにも関わってきましたから、もともと私達とは高い親和性がありました。だからTBSさんの赤坂BLITZ、少し前なら日本テレビさんのAXが先行している状況で、自前の会場がないことにもどかしさも感じていたんです。自分なりに(テレビ朝日の社屋がある)港区にシアターやライブハウスを建てるなら……という青写真は描いていましたが、実現させるためには当然、経営判断が必要になります。そんな時に六本木ヒルズの社屋が手狭になったこともあり、現在の場所に階上がオフィス・スペース、下にEXシアターというビルをオープンさせる構想が浮上しました。
一番大切だと思っていたのはキャパシティの設定です。まずスタンディングと着席のライブがハイブリッドでできたほうがいい。ただしスタンディングでキャパ1000人程度だと、海外アーティストの招聘ビジネスはできませんので、2000人いくかいかないか、シーティングであれば900くらいは必要だと考えました。さらには六本木から西麻布というエリアに合わせたホールの特徴を打ち出すことも大切。それも運営側の都合ではなく、来ていただくお客さんの目線、使っていただくアーティスト側、制作側の目線を意識した上での特徴づけです。例えば入場前のお客さんが六本木通りに出て並んでいただくことになったら、相当ストレスになるわけです。そこでシアターの上にお客さんが待機できるスペースをつくって、そこにカフェバーも併設しました。シアターの内部にはパイプ椅子を並べるのではなく、座り心地の良いシートを設置しました。
制作側の視線で考えれば、セットや機材の搬入・搬出をしやすいことが大事です。EXシアターでは、ステージサイドまで11tトラックが入ることができ、エレベーターは30tまで対応。荷さばき場もかなり広いです。それと演者にとっては、やっぱり出音の良さを徹底的に追求することが重要でしょう。加えてこれは他局の会場との決定的な違いなのですが、うちは仮設ではなく、常設の鉄筋コンクリートでつくっていますので、振動とか音漏れが一切ないんですよ。さらに楽屋スペースには、音楽を聴けて、映像もチェックできるラウンジがあるなど、リラックスできる環境を整えています。
私自身、東京にこういうエンタテインメントの施設があるべきだという思いはずっと持ち続けていました。また、東京オリンピックを前にした深刻な会場不足というACPC全体にとっても大きな問題に、コンサートはもちろん、ミュージカルや歌舞伎、企業催事にまで利用できるEXシアターが誕生したことで、少しでも貢献できるのであれば、うれしいですね。