日本を代表する都市型ロック・フェスティバル、サマーソニックが今年、10周年を迎えます。東京と大阪の同時開催、今が旬のアーティストとキャリア/ニューカマーを取り混ぜた絶妙のブッキングは例年通りですが、開催期間をこれまでの2日間から8月7日(金)〜9日(日)の3日間に拡大した点が大きな違い。記念すべき10 th アニバーサリーに、ある意味では大きなリスクをともなう変化を選択した理由はどこにあるのでしょうか。「ターニング・ポイント」を自ら定めた張本人、サマソニを主催するクリエイティブマンプロダクション・清水直樹代表取締役社長(ACPC理事)のインタビューから本特集をスタートさせます。
会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
フェス白書09 10年目のターニングポイント
サマーソニック2009
「10周年は3日間」の意味
今回の取材は、日本で行なわれている夏のフェスが、それぞれ順調に10年前後続いてきている中で、そろそろターニング・ポイントを迎えつつあるのでは—というテーマで進めているのですが、10周年を迎えるサマーソニックではいかがですか?
清水:昨年の9回目までは、右肩上がりで動員が伸びていたことは確かですし、僕達もフェス全体の盛り上がりを実感しながら、サマーソニックを運営していました。ただし、そんな中でも節目節目で何かにチャレンジしていきたい、変化していきたいという気持ちがあって、10周年を迎えた今年、開催期間を2日間から3日間に増やしたんです。僕がサマソニを始めた時にお手本にしたイギリスのレディング(Reading and Leeds Festivals)や、毎年行っているアメリカのコーチェラ(Coachella Valley Music& Arts Festival)も3日間になってきているので、日本でフェスのオーガナイザーをやっている立場としては、やはり「10周年は3日間」に挑戦してみたいなと。どちらかといえば、日本の他のフェスの動きはあまり意識していないですね。
「3日間」に対する、お客さん側の反応はいかがですか。
清水:チケットの売行を見てみると、3日間になったことによって、オーディエンスが戸惑っている感じが伝わってくるんです。昨年までは2日券を買うお客さんと、自分の行きたいほうを選んで1日券を買うというお客さんが、ちょうど半々ぐらいにはっきりと分かれていたんですが、今年の3日券の売行は、今までの2日券に比べてやや落ちますね。もしかすると「戸惑い」というより、不況の影響も多少あるかもしれませんが、はっきりとした理由は終了してみないとわからないと思います。それと3日間のうち、1日券を金土とか土日とか、2日分買ってもいいと思うのですが、そこにもためらいがあるようですね(チケットの販売は3日通し券か、各1日券のみ)。とはいえ土曜日の1日券に関しては、去年以上にかなり売れているので、最終的には3日間がいい感じで終えられるんじゃないでしょうか。まあ、やはり新しい形を提示する時には、今までの形に対してこだわりもあるでしょうし、必ずしもそのまま受け入れてもらえるわけではないと思いますので、3日間になった今年は色々な面が見えてくると思います。逆にいえば、来年以降も3日間の開催を続けていかないと、新しい形がスタンダードとして認知されないので、来年でまた2日間に戻すということはしたくないなという気持ちもあります。
フェスの新しい楽しみ方
主催者側としては、3日間になることでタイムテーブルや企画面での変化はあるのでしょうか。
清水:金曜日が肝だと思うんです。この日に来ていただこうと思ったら、仕事がある人は休んでいただかなければいけないわけですから。だから今年は金曜日だけ、ちょっとスタートを遅らせて12時からに設定して、深夜のメニューをすごく充実させたんです。夜10時くらいからのライヴやダンスステージを。例えば日が暮れた頃、5時、6時くらいから参加しても、その後オールナイトで楽しめば、1日分満足できるように考えたんです。これはこれまでのサマーソニックとは違う、新しい楽しみ方なので、今年体験してもらって「こういう楽しみ方があるんだ」と感じてくれればうれしいですね。
やはりフェス文化は、主催する側とお客さんが、ともに成熟していくというか、年を追うごとに新しい楽しみ方を発見できて、それが数珠つなぎにお客さんの間で広がっていくことがすごく重要だと思います。うちだけではなく四大フェスと呼ばれているものも、この先10年続けていこうと思えば、きっと色々と考えていかなくてはいけないことがあるでしょう。この先、全国で行なわれているフェスの中でも、やはりいくつかは淘汰されて、残るものは残っていくという時代になると思うんです。それが10年周期なのか5年周期なのかわからないんですけど、様々なことが変わってきている中で、今までと同じやり方をやればいいということでは絶対にないんですよね。ラインアップの色分けや、開催形態や場所が、各フェスともに変化が生まれてくるのは当然だと思います。その中でサマーソニックは開催日を拡大していくという選択肢を持ったということじゃないでしょうか。
「3日間」に対する、お客さん側の反応はいかがですか。
清水:チケットの売行を見てみると、3日間になったことによって、オーディエンスが戸惑っている感じが伝わってくるんです。昨年までは2日券を買うお客さんと、自分の行きたいほうを選んで1日券を買うというお客さんが、ちょうど半々ぐらいにはっきりと分かれていたんですが、今年の3日券の売行は、今までの2日券に比べてやや落ちますね。もしかすると「戸惑い」というより、不況の影響も多少あるかもしれませんが、はっきりとした理由は終了してみないとわからないと思います。それと3日間のうち、1日券を金土とか土日とか、2日分買ってもいいと思うのですが、そこにもためらいがあるようですね(チケットの販売は3日通し券か、各1日券のみ)。とはいえ土曜日の1日券に関しては、去年以上にかなり売れているので、最終的には3日間がいい感じで終えられるんじゃないでしょうか。まあ、やはり新しい形を提示する時には、今までの形に対してこだわりもあるでしょうし、必ずしもそのまま受け入れてもらえるわけではないと思いますので、3日間になった今年は色々な面が見えてくると思います。逆にいえば、来年以降も3日間の開催を続けていかないと、新しい形がスタンダードとして認知されないので、来年でまた2日間に戻すということはしたくないなという気持ちもあります。
「ジャンルを限定」は有効か?
御社ではサマーソニックだけではなく、ジャンルを限定したフェスも手掛けていらっしゃいますが、各ブランドのフェスは今後どういう風に変化していきそうでしょうか。
清水:サマーソニックがある程度成功した後、冬に開催する「ソニックマニア」という、サマーソニックを縮小した感じのフェスをやったんですけれど(04〜05 年)、あまりうまくいかなかった。そこでオールジャンルの大きいフェスティバルをうちで手掛けるのは、サマーソニックだけでいいなと思ったんですね。じゃあ、次はオールジャンルじゃなくて、ちゃんとジャンルにフォーカスしたもの、コアなところで訴えていくものをやろうと着手したのが、ヘヴィメタル&ハードロックの「ラウドパーク」であり、R&BやHIP-HOP、レゲエの「スプリングルーヴ」であり、パンク・ロックの「パンクスプリング」なんです。ただし、今後それらに関しては、特に拡大していこうと考えているわけではありません。規模感としてはこのままで、ずっと長く続けられればいいなというのが率直な希望ですね。ジャンルを限定したものは、正直、10年単位で続くかどうかわからないんですよ。過去にもブームのピークがあって、いきなりなくなった例もたくさんありますから。だから、現状あるフェスをずっと続けていくというより、その時代に合ったジャンルに特化したフェス、イベントを立ち上げればいいのかなと。それくらいの柔軟性を持って考えていますね。
最後にACPCの理事として、ご自身の役割はどのようなところにあるとお考えですか。
清水:僕個人としてはACPCに参加させていただくことは、とても勉強になるんです。僕らは洋楽中心の仕事をしていますから、やはり邦楽の世界で知らないことはたくさんありますし、全国の各エリアで何が起こっているのかという情報も得られます。一方で僕には何を求められているのか、僕に何ができるかという点でいえば、他の理事の方々とは少し違うジャンルで仕事をしている立場からの意見だと思うんです。だから今後も別の視点や考え方を提示していくような役割を果たせればと思っています。