中西:今、仕事をがんばっている20代の女性がたくさんいると感じるんです。放送局でも活き活きと働いている女性がいるでしょう。皆さんコミュニケーション能力が高い印象がありますね。檜原社長はご自分が入社された当時を振り返って、いかがですか。
檜原:私が入社したのは、男女雇用均等法の施行後なので、男女ともに一斉にキャリアをスタートできる環境になっていました。ただし、入社後にワンキャリアを築いて30代に入ると、例えば結婚とか育児とかライフスタイルの変化があったり、体力も少しずつ落ちてきたりと、色々なことが重なり不安と不満が生まれてきて、仕事をあきらめてしまう人もいたと思います。その中には本来だったら会社に必要な人材もいたと思うんですよね。だから制度や法律はもちろん大事なのですが、メンタリティとか健康面のチェックも、仕事を続けていくために大事になってくると思います。
中西:本当にそうですね。
檜原:それをちゃんと企業としてもやっていかないと、いざ管理職や役員に誰がなるんだ、と周囲を見回しても適任者がいない、ということになりかねません。
中西:今、男性が普通に育休をとれるようなってきましたが、そういう制度の部分だけでは「居心地のいい会社」にするのは難しいでしょうね。
檜原:社員の生活と仕事のバランスに寛容であるべきだと思います。忙しい業界だと、「子供が熱を出したので帰ります」とは言い出しにくい。誰かがその仕事を代わらなくてはいけなくなった時の対処方法が、ほとんどの組織でできていないと思うんですよね。
中西:頭では理解しようとしていても、「なんで帰るんだよ」という本音もあったりして。
檜原:そういうことが続くと、いたたまれなくなって「辞めなきゃいけないのかな」という気持ちになってしまいますから。働き方の問題は昭和、平成、令和ときて、今が本当に転換期なんだと思います。昭和の気分や慣習から完全に変化する、進化するまでの間はどうしても不安定になりますが、会社が人を育てること、人が会社で働き続けてくれることが最重要だと思いますので、取り組んでいきたいと思います。
中西:「女性社長」であることを強調するつもりは全くありませんが、檜原社長ならではの視点は、やはりあると思うんです。これまで男性の目線でほとんどのことが決まってきた業界で、「あれはこうじゃない?」「えっ、そういう見方もあるんだ」という気づきは必ず生まれる。だから檜原さんが社長になったことによって、知らないうちに変化が起きることもあり得るのではないでしょうか。
檜原:よく「在京キー局で初めての女性社長誕生」という見出しが掲げられる取材を受けるんですけれど、それはそれでありがたく対応をさせていただきつつ、代表として言わなきゃいけないことは言わせていただているという感じなんです(笑)。でも、私には男性とか女性とかという意識はあまりなくて、強く伝えたいメッセージは「変わらないといけない時、変わることに恐れを持たないでほしい」ということなんです。社長就任時がたまたまコロナ禍と重なってしまって、否が応でも変わらないといけなくなってしまったこともありますが、実は世の中の「こうあるべき」のいくつかは、単に慣習的に続けているだけなんじゃないかと気づいたんですよ。この業界にも決まった行事がいくつもあって、コロナ禍でできなくなりましたが、やらなければやらないで、別に何の問題も起きなかったこともありますよね(笑)。ですから本当に大切なことは守りつつ、日々の「当たり前」を一度疑ってみるのも必要ではないかと。それをきっかけにして進化できることもあると思います。