中西:業界全体を見渡してみると、まだまだ不安もあるんですよね。業界を代表して議員会館でどう話してくるかとか、厚生労働省に行って何を伝えるべきなのかとか、難易度が高い問題がかなり残っているんですよ。そういった役割を担って、各団体をまとめられるような次の世代の人がいるのかどうか。業界全体を俯瞰で見ることができる人はなかなかいないと思うんですよね。
後藤:全くその通りだと思いますね。もともと自己主張の強い人が集まっている業界ですし(笑)、特に権利に関係することになると、どうしてもぶつかり合ってしまう面がある。とても難しいですね。とりあえず船に乗って、次のフィールドを協力し合ってつくって、みんなでそこに上陸しようよという気持ちにならないと。中西さんがいうように、トータルに俯瞰で見て、ひとつの方向性を出していく必要があると思います。例えば著作権と著作隣接権に関しても、将来的には一緒になっていくと思うんですね。権利の分配の仕方も、かなり変わっていくでしょう。それらの問題を誰が明確化して、みなさんに対してプレゼンテーションして、まとめていくのか。僕なんかは横で眺めていて、心配になってくるんです(笑)。
中西:業界の中で、100ある原資から小出しに分配を得ようとする発想を、まず変える必要があります。そのためには、異業種の人達とちゃんと話をするべきだと思うんですよ。他の業種には30代であっという間に億万長者になっている人もいて、中にはちょっとどうかなと思う例もありますが、素晴らしいビジネスもいっぱいある。そういう人達とちゃんと話をしていけば、得られる成果は必ずあるんじゃないでしょうか。「音源をつくりました、ライブをやりました、マーチャンダイジングも考えています」だけで、さらに市場を大きくしていくことは難しいんですよ。異業種の魅力ある人達を音楽業界に引き入れようという野心、僕は満々です。
後藤:今、中西さんがいったような、違うメディアと連携させて、音楽だけじゃない、もっと付加価値をつけた形で商品化することも大事ですね。つまり商品開発というか、そういう観点でレーベルなりプロダクションなり、プロモーターの人達が考えていかないといけないですよ。それとアルバムが100万枚、200万枚売れる時代ではないけれど、5万枚、10万枚の場合でも、100万枚と同じようにアーティストが活動できる環境を考えることも重要。両輪が必要なんだと思います。
中西:そうですね。2ウェイでやっていく道を探るべきです。売るのは音源だけではない、やるものはライブだけではない。そんな時代のスピードに僕らが追いつかなくてはいけないですね。
後藤:上の年代がCDを買い直さなくても、例えばサブスクリプションで井上陽水を全部聴けるようになったから聴いてみようと、音楽に戻ってきてくれればいいわけですし。我々が権利者としての意識だけで考えると、「サブスクリプションって、レーベルやアーティストにこれだけしかお金が入らないの?」ということしか考えなくなってしまう。
中西:そうかもしれません(笑)。
後藤:だから「いや、ちょっと待て」と。我々は常に次の時代を見据えていく必要があると思います。