桑波田:そういった背景もあって、今MPAではフィンガープリント(*2)の実証実験を進めているんです。以前、イギリスのヒースロー空港で待ち時間に回転寿司屋さんに入ったら、流れている映像はももいろクローバーZで、かかっている曲はCharisma.comというシチュエーションに遭遇したんです。日本の音楽を有線みたいなもので流しているようなのですが、ふと「これは使用料を徴収できているのかな?」と思いました。JASRACとPRS(イギリスの著作権管理団体)は相互管理契約を結んでいるので、演奏権使用料が入るようになっているはずだが、こういう使用までカバーしているのだろうか、と。フィジカルでの正規販売であれば収入になるのは確実ですが、演奏権の場合は海外からの徴収システムがまだまだ未整備な部分があります。
中西:逆にいうと海外アーティストは日本でも公演を行っていますが、その際に僕らは演奏権使用料を支払うわけじゃないですか。日本ではきっちりとシステムができていますが、日本のアーティストが海外でライブをやっても、楽曲の権利者の収入につながらないということですね。それは確かに大きな課題です。
桑波田:楽曲を管理させていただいている音楽出版社が、権利者を代表して使用実態のデータを用意して、JASRACを通して相互管理契約を結んでいるPRSに使用料を徴収してくださいと話をしないといけない。つまり、海外での使用を追跡できる方法を模索しなくてはいけないということです。
昨年たちあがった実証実験では、ロンドンにあるサウンドマウス社のフィンガープリント技術を使うのですが、楽曲の原盤からフィンガープリントを生成し、それを調査する番組にあてていくと、システムのモニター画面に時系列に沿った使用状況が表示され、オートマティカリーにキューシートが作成されるというシステムなんです。このサウンドマウス社の何がすごいかというと、例えばスポーツ番組で曲が流れたとして、観客の声、実況アナウンサーの声、解説者の声が複合的に重なっている中でも、楽曲の使用実態を正確に把握できることなのです。
サウンドマウス社では、フィンガープリントのデータが取れている海外の楽曲を4000万曲持っています。でも、邦楽曲はほとんどそこに入っていないのが現状です。それで調査や実証実験を進めるべく、JASRAC、レコード協会、音制連さんなど関係諸団体の方々にご協力を仰ぎました。現在、目指しているのは2カ月で110万曲のフィンガープリントを取って、それをサウンドマウスのサーバーに入れ、彼らがモニターしている海外300局以上の放送局から日本の楽曲がどれくらい使用されているか、調査結果を報告してもらうことです。やっと着手できる段階まできたというのが正直な実感ですね。
中西:本当に大変なプロジェクトですよね。たとえば中国で13億人のためのJASRACをつくるとしたら、いったい何人必要なのかという話ですから(笑)。今回の対談で感じたのは、コンサートプロモーターも演奏権使用料を支払う立場ですので、海外のそういった状況を情報として知っておくべきだなということです。本日はどうもありがとうございました。