コンサートプロモーターの存在を、最も広く世間一般に知らしめた社の一つがスマッシュだということに異論がある方は少ないでしょう。同社が主催するFUJI ROCK FESTIVAL(以下フジロック)の誕生は、過去20年間のあらゆる音楽業界のトピックの中で、最大の「発明」といっても過言ではありません。また、フジロックに続き、全国のプロモーターが夏フェス文化を花開かせたことは、日本のライブエンタテインメント史において特筆すべきことです。今後も洋邦問わず音楽シーンをリードしていくであろうスマッシュがACPCのメンバーに加わったことは、各加盟社にも大きな刺激になるはず。経理担当という立場から、同社の業務全体を見渡す機会も多い松岡弘文さんに、「誰もやっていないことをやる」スマッシュイズムが、ACPCでどのように活かされるのかをお伺いしました。
会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
新加盟社紹介
スマッシュ
認知度と社会的な責任
弊社が今までACPCに加盟していなかったのは、特別な理由があったわけではなく、「なんとなく加盟しないままになっていた」という感じだと思います。代表の日高(正博)も「誰もやってないことをやる」ことばかり考えているタイプですから、「団体」にあまり興味を持っていなかったのでしょう。
フジロックは今年で14回目を迎えますが、年を重ねるにつれてスマッシュという会社自体、認知度が高くなってきたと思います。認知度が高まれば、会社の事務や経理面をきちんと整備したり、社会的な責任に対応する必要が出てきますが、ACPCへの加盟もそういった対応の一つになればと思っています。それとACPCには、各社が力を合わせて業界をより良くしていくという目的があると思いますので、そこに参加させていただきたいという気持ちもあります。
僕は全く別の業種からコンサート業界に入ってきましたが、この業界は音楽に対する深い興味と愛情を持っている人が働いていて、仕事のやり甲斐も感じられますよね。一方で仕事量に比べて経済的な見返りが決して高いとはいえませんし、福利厚生も手薄な面があると思います。待遇面だけが原因ではないと思いますが、会社への定着率が低く、人の入れ替わりの激しい印象もあります。
やはり一般の人達からは見えにくい業界なんだと思います。僕もこの仕事に就く前は、アーティスト以外は皆「裏方さん」だと思っていました。日高は「コンサートはみんなで一緒に作り上げるものだから、仕事に裏も表もない」と常に言っていますが、まさにその通りだと思います。今後は加盟社の方々と業界全体を見えやすい世界にして、それが結果的に待遇改善につながっていけばと思います。
「フェスを楽しむ」文化
また、日本のライブ会場では、お酒の持ち込みなどはなかなか認められませんが、お客さんの立場からいえば、もっと自由な雰囲気があれば、より音楽を楽しめると思うんです。例えば地方公演で、温泉に入って美味しいものを食べて飲んで、ライブも観られるという宿泊型の企画があれば、楽しそうですよね。国内アーティストだけでなく、来日アーティストの公演でもいいですし。JRのチケットとセット販売したり、開演時間を早めに設定したり、色々なアイデアを出していけば、地方の活性化にもつながるのではないでしょうか。
現在は弊社で主催しているフジロックや朝霧ジャムだけでなく、全国にフェスティバルは広がっていますが、日本で完全に文化として定着するまでは、もう少し時間がかかると考えています。主催者側も心からフェスを楽しみ、みんなでハッピーな時間を過ごそうというスタンスを維持して、常に新しい遊び場を提供していけば、お客さんの間でもフェスの楽しみ方はより浸透していくのではないでしょうか。バケーションの選択肢が広がるのはいいことだと思いますし、親子連れがフェスに来て、自然にその面白さを感じて欲しいですね。毎年フェスへ足を運ぶことが完全に定着するまで、僕達も気を引き締めてやっていかなければと思っています。
フェスだけではなく、今後も弊社ではアーティストの単独公演のプロモートも行なっていきます。1983年の設立以来、日本でのネームバリューは低くても良質な音楽を紹介してきましたが、その姿勢は変わらないでしょうね。「メガヒットよりもスマッシュヒットを大事にしたい」という社名に込められた思いを、ずっと失わないようにしたいと思います。