相馬:今、アミューズでは台湾のMaydayという、中華圏トップのロック・バンドの日本国内リリースとマネージメントを業務委託でやらせていただいています。また、僕はアミューズの役員としてシンガポールやインドネシアも担当しているので、アジアの方々とミーティングする機会もあって、日本のアーティストのことを聞くこともあるのですが、誤解を恐れずにいうと、日本のエンタテインメントが各国から必要とされているかといえば、なかなか難しい面もあると思います。少なくとも「J-POP」や「J-ROCK」という大きな枠組で求められているかといえば、そうではない。
中西:僕も実感として分かります。この前も上海で中華圏のプロモーターが20人くらい集まって、日本の音楽業界のメンバーと話をしましたが、本音を聞くとなかなか厳しいですね。
相馬:海外から注目されている日本のアーティストを思い浮かべてみても、アジアを目指して音楽性やパフォーマンスをローカライズしているわけではなく、もともとオリジナルなものを持って、目指す目標をきちんと持っている人達は、海を越える可能性があるということだと思います。
中西:ジャパン・カルチャーがあってアーティストがいるわけではなく、面白いものはSNSなどを通して個々にピックアップされていくんですよ。
相馬:実際に現地に乗り込んで、もともとニーズがないところでマーケットを作ろうと思ったら、それは本当に大変なことですよ。日本の常識をすべて取り払うくらいの覚悟、自分の価値観を全部フラットにするくらいの気持ちがないと難しいと思います。
僕が最近思うのは、海外でマーケットを広げるのではなく、日本に来てもらって日本でエンタテインメントを楽しんでもらうことをまず考えるべきじゃないかということです。現地でライブをやることももちろん重要ですが、アジアの人達に日本へ観光に来てもらって、和食や温泉、ファッションや電化製品の買物を楽しむ中に、エンタテインメントが入っているような楽しみ方を提供することも大事じゃないかと。歌舞伎などの伝統芸能だけではなく、日本のロックやポップスのライブの素晴らしさを感じてもらいたいですよね。日本列島には四季があるし、沖縄の海もあれば、北海道の雪もある。料理はなんでも美味しいし、治安もいい、交通も整備されています。各地のプロモーターの皆さんが力を入れて取り組めば、外国人観光客が今以上に増えるでしょう。
中西:それこそが地方創生だと思います。東京オリンピック・パラリンピックを前にして、2019年には日本でラクビーのワールドカップが開催されますし、チャンスは色々とあります。ワールドカップの試合会場候補地は全国にわたっていますから、僕達も何かできることを考えるべきだと思います。
相馬:生意気ですが、各地のプロモーターさんがやるべき任務というか、責任はすごく大きいですよね。うちで現状チャレンジしていることでいえば、これは東京での試みになりますが、東京タワーで展開しているテーマパーク、「東京ワンピースタワー」ですね。『ONE PIECE』は世界でも人気のある漫画ですので、多くの外国人観光客の皆さんが訪れてくれることを期待しています。東京の街を活性化する試みは、弊社の会長である大里(洋吉)が発案した「浅草六区再生プロジェクト」から始まっていますが、これからの時代を見据えた時、マネージメントや版権ビジネス以外のアミューズが手がけるべきビジネスを探る意味もあるんです。
中西:僕達コンサートプロモーターにも大里さんのような発想が必要なんですよ。例えばプロモーターが各地の街のコンシェルジュのような役割を担えればいいと思います。食文化からエンタテインメント、観光まですべてをアテンドして、チケット情報なども英語でインフォメーションできるような存在がこれからの日本には必要じゃないでしょうか。