中西:紫舟さんはいわゆる書だけではなく、絵も描きますし、様々な作品をつくられています。フランスで賞(Laval Virtual 2012「設計芸術文化賞」)を受賞した作品も書と映像のコラボレーションでしたが、あの作品は最初から海外を意識して制作されたんですか。
紫舟:はい。最初に展示したのは、私が毎年主宰している恵比寿ガーデンプレイスでの「ラブレタープロジェクト」(書の文化普及活動)でした。この作品を作るきっかけは、私たちの世代で日本の文化を世界にメッセージしたいという想いからでした。初めて海外で作品展示を行った時、私自身はうまくいくのではないかと思っていたんですが、しっかり挫折して帰ってきた経験があります。言語を黒と白の世界で表現するという理解域を超えて伝える難しさ、文化の壁にぶつかりました。
中西:書は伝統的な芸術ですから、普通に考えれば新しい文化より国と国との壁が高そうですよね。
紫舟:それで書だけではなく、映像テクノロジーの力を借りることを思いついて、チームラボにインターラクティブなアニメーションインスタレーションのメディアアートの制作を発注しました。彼らが持つテクノロジーを使って、書をアートの域に昇華させていく試みです。
映し出された映像の中で私が書いた書が天から降ってきて、その書は人の影に触れると体に吸い込まれ、そしてその言葉を表現するアニメーションに変化していく、参加型の作品です。漢字はもともと象形文字も多く、文字自体が自然界のものをヴィジュアルで表現しています。漢字が再びそのことばの意味となった姿に映像表現を用いて発展していくことは理にかなっていました。そのため、海外の人たちにも理解いただけ、さらに1年以上かけてブラッシュアップしクオリティーをあげ、フランスで受賞したり、ノーベル賞の授賞式で展示されたり、世界10カ国で招待展示されました。
中西:あの作品はすごいですよ。僕も拝見した時、書と映像であんなことができるんだと驚きました。
紫舟:日本は昔から絵の中に文字が書かれていることが普通でした。美術と文学がとても密接でした。おそらくそれがアニメやマンガの源流だと考えています。西洋では美術と文学は異なるものですから、今、世界で「クールジャパン」といわれている現象も、その異なる文化から生まれてくるものの違いが評価されていると思います。私ももう一度、日本文化の原点に立ち返って、書と映像をより緻密に一致させることができたら、世界で日本を発信できる作品や試みに力を入れていくつもりです。