会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

ACPC人材育成研修会 ダイジェスト 2

現状の音楽業界について

中西健夫

ACPC副会長/ディスクガレージ代表取締役

「100年に一度」の不況と自らの仕事への自負

最初の講演は、研修会の担当理事である中西健夫ACPC副会長が、続く各講演の講師の方々のプロフィールを紹介しつつ、データを交えて音楽業界の概況をまとめた。「少し堅い話をします…」という言葉の後に掲げられたのは「今、不況といわれていますが、音楽業界は本当のところ、どうなのでしょうか?」という問いかけ。その答えは「データだけでいえば、去年のCDの売上は3200億円くらいで、ここ10年くらい毎年減り続けています。邦楽はほぼ前年同様の売上だったのですが、洋楽の売上が前年比の約8割だったことで、その分、全体が落ちたという状況です。パッケージでは、音楽DVDだけが前年比を上回っていて、102%くらいの微増。配信については、去年のデータはまだ出揃っていませんが、一昨年は約750億円。去年の上半期の段階で450億円なので、間違いなく通年でもアップしているでしょう。だから音楽マーケット全体で考えると、配信がアップしている分、それ程減っているとはいえないと思います」とのこと。次にコンサート業界に話を絞り「ACPCのデータでは、アバウトな数字ですが会員社の売上合計が約1000億円。コンサートの動員を合わせると、年間約2000万人くらいです。つまり、日本人の6人に1人。これはすごい数字ですよね。我々はそういう自負を持っていいんじゃないかと思います」と語った。

さらに「暗い世の中だといいますが、売れているチケットは何の問題もなく売れ続けています。でも、少し売行が落ち始めたチケットは、きっとこれからより厳しくなると思います。そこをどうやって支えるかが、我々プロモーターの手腕だと思いますので、今日の研修会で様々なことを吸収し、感じてもらって、これからの仕事に役立てていただければと思います」と締めくくり、引き続き亀田誠治さんの講演でナビゲーター役を務めた。

ファンの目線、プロの仕事

亀田誠治

音楽プロデューサー

対話を積み重ね、一緒に作っていくことが基本

音楽プロデューサー、ベーシストとして活躍、日本武道館でのプロデュース・イベント「亀の恩返し」を控えていた亀田誠治さんに、音楽への愛情、音楽業界の楽しさについて語っていただいた。小学生でビートルズと出会ってから音楽好きになり、中学校の卒業文集では「10年後に武道館で待ってるぜ!」と宣言、プロミュージシャンを夢見る少年時代を送ったという亀田さん。「プロデューサーとして初のミリオンヒットは椎名林檎さんの『無罪モラトリアム』。35歳の遅咲きです。時間をかけて経験を積んだ分、多くのアーティストと出会えたのですごく満足しているし、僕の人生はいい感じに彩られています」と振り返った。

音楽プロデューサーとして心がけているのは、アーティストと深い人間関係を築くこと。「音楽的なノウハウだけでアーティストを導いても、リスナーの心は揺らせません。対話を積み重ね、一緒に作っていくことが基本です」という。また、コンサート・プロモーターとの関係も重要視していて、「リスナーとプロの両面から聴いて公平な判断をしてくださる方の意見は貴重です。最近は効率アップや経費削減ばかり考える傾向にありますが、皆さんと意見交換できる打ち上げの席は残してほしいですね」とのこと。

自身がプロデュースする「亀の恩返し」について、「演奏する側としてではなくファンの目線で構成を考え、僕という人間をキーワードに人と人とをつなげるイベントにしたい。ゲストに演奏してもらうだけではなく、全部が一つにつながるイベントにできれば」と語り、最後に「新しいことや困難なことに取りかかると、その中から得るものはたくさんあります。若い人は新しいことにどんどんチャレンジしてください。予定通り進まないのが仕事で、そこに面白さを見つけるくらいの気持ちでやるといいですよ」と、若いプロモーターへのアドバイスで締めくくられた。

プロダクションとコンサート・プロモーター

大森奈緒子

ファンキー・ジャム代表取締役社長

音楽業界で働く女性、そして若者へ「送る言葉」

キティ・ミュージック・コーポレーションを経て、1992年に久保田利伸さんとともに独立、ファンキー・ジャムを設立した大森奈緒子さんに、プロダクションの立場から、そして女性ならではの目線からコンサート・プロモーターとの関係について語っていただいた。

「プロモーターの方々はチケットを売ることが最大の目標ですよね。シンプルなべクトルであるがゆえに、時代の流れを肌で体感されているので、率直な意見を常に私達に教えてほしいと思います。東京のビジネススタイルを各地に派生させることは可能ですが、地場の力は想像以上に強く、各エリアでのやり方を知っているプロモーターの方々の意見を聞かずして音楽業界での成功はあり得ないと思います」と語り、さらに「アーティストは自分しか頼る術がないので孤独なものです。願わくば批評をする前にリスペクトの気持ちで接してもらえると、アーティストはもっとがんばるはず。一つでも魅力を見つけて話しかけてくだされば、苦言も受け入れて信頼関係も築けます」と加えた。

「女性がこの業界で仕事をする上で大事なことは?」という中西副会長からの問いには、「そもそも男性に勝とうという気持ちは必要ありませんし、自分がやるべき仕事を女性持ち前の律儀さと責任感で黙々とこなしていけば、周りからの期待も大きくなり、いつの間にか自他共に成長を感じられるものです」とのこと。最後にプロモーターだからこそできることを伺うと、「情報過多な業界にいると、見たつもり、知ったつもりの人を多く見かけます。体感したことを人に伝えていくことで自分に磨きがかかって、人に対しても影響を与えられる人になると思います。他力本願ではなく、自ら活性化してください。若い皆さんが斬新なアイディアを出して、元気に振る舞ってくれることが、上の人達の勇気につながります」という励ましの言葉で講演は終了した。

音楽の価値観について〜マーケティングリサーチの報告

リンクアンドモチベーション

見えてきたクチコミの力、心地良さの重要性

リンクアンドモチベーションは世界初の「モチベーション」にフォーカスした経営コンサルティング会社。一般消費者の音楽に対する考え方や嗜好をリサーチし、その結果をコンサルタントの方にご報告いただいた。「コンサート業界全体の中長期的な発展に向けて」をテーマに、「現在はコンサートに足を運んでいないが音楽には興味がある」という人も含む客観的なデータが明らかになった。

全国の15〜69歳男女1000人で音楽に興味関心がある人の割合は全体の74%以上と高く、日本人にとって音楽は親しみがあって興味関心の高い分野だということがわかった。音楽受容性の割合をエリア別に比較すると、東北エリアが76.6%と平均よりも高かった。次に関東エリアの15〜69歳男女1000人に、コンサートの参加状況や価値観について調査した結果、全体の30%が過去1年間でコンサートに参加したと回答。参加経験のある30%に絞って参加するきっかけとなる情報源を聞くと、「友人知人」が39%と圧倒的に多く、「クチコミが力を持っていて、信頼できる人からの情報で判断しています。せっかくお金を出して行くのだから失敗したくないという価値観を持つ人が増えている傾向があります」とのこと。

音楽に対する価値観によって、「コア層」「サブ層」「中間層」とセグメント化して比較分析したところ、コンサートに行く回数はコア層が年2〜6回、サブ層が年2〜3回、中間層は年1回行くか行かないか、という結果となった。「参加したかったけれど行けなかった」人の理由のトップは、「日程の都合」がどの層でも多く、次に「会場が行きにくい」「座席があるイベントを望む」が中間層で特に多かった。今後、サブ層や中間層に積極的に足を運んでもらうためには、会場までのアクセスや会場の居心地の良さを考慮したイベント作りが求められていることがわかった。


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