震災の影響を別にすると、近年は一般的にも「ライブ・エンタテインメントの時代」とされています。CD産業の不況が続いているのに比べて、ライブの売上金額が伸びているのも事実ですが、実際にライブの担い手である方々にとって、実感はあるのでしょうか。
横山:CDの売上が落ちていることと、ライブが上がっていることを、あまり直接的に結びつけて考えないほうがいいと思います。CDがダメなのではなくて、CDとは違う、一期一会で、その時にしか味わえないというライブの感覚が受け入れられているんじゃないでしょうか。ライブの場合は2000人の会場だったら、2000枚しかチケットは販売されないし、限られた人数しか見ることができない。だから個人のプライオリティーが高くなるのだと思います。昔に比べてチケットが買いやすくなったことも確かですし。
渡邊:チケットを手に入れるための利便性が格段に上がったことは大きいですよね。インターネットで買うことができて、受け取りも近所のコンビニでできて。ホームページに登録すれば、次からはもっと楽に購入することができる。その分、ライブ人口が増えたともいえると思います。
どんな「商品」でも、アクセスのしやすさは重要です。
渡邉:情報量も圧倒的に増えました。僕らが高校生の頃は、どうやってチケットを買ったらいいか、どこで、どんなライブがやっているのか、全然わかりませんでしたから。『ぴあ』か『シティロード』をチェックするしか、方法がない時代でした(笑)。今はライブの情報をお客様に確実に伝達できるようになりましたからね。
横山:でも、ライブの売上が伸びているといっても、微増ですよね、微増(笑)。
渡邉:逆にコスト管理は、ここ数年シビアになってきていますよね。20代の頃は、2000人のキャパシティーの会場で、設営にこれだけかけていたら、絶対赤字だよなと漠然と思いながら現場で働いていました(笑)。今は2000人で、チケット代はいくらで、そこからコストを引いたらいくら残るか、皆さんシビアになっていると思います。
ACPCが毎年行なっている、会員社を対象にした市場調査を見ても、「大幅増」というより「堅調」という感じではあります。
渡邉:もちろんアーティストやプロダクション側も、CDの売上が下がればライブへの比重は高くなるとは思いますし、音楽活動全般での配分が、少し変わってきているんじゃないでしょうか。ライブがCDの宣伝活動の一環と考えられていた時代と比較すれば、自分の表現の場としてライブにより力を入れるようになってきたと思います。ライブをやれないアーティストは、実際に10年、20年と長期的な活動ができないことも確かですからね。
チケット価格は適性か?
昨年を振り返るのは、これくらいにさせていただいて、今年のライブ・エンタテインメントの展望に移りたいのですが、お二人が現在感じてらっしゃる問題点は、どんなところにありますか。
渡邉:僕が最も強く感じているのは、チケット価格の問題です。アーティストによって、もう少し幅があってもいいと思います。日本のアーティストは、活動が5年、10年ぐらいになると、5000円から6000円までは一気に上げられるのですが、そこから先がなかなかアップしない。一方で海外アーティストの来日公演は、ギャラが高いからと高額でも納得してしまう風潮がある。
海外アーティストの中でも、K-POPの存在感が増していますよね。
ディスクガレージ渡邊邦夫
渡邉:確かに昨年は、K-POPのライブによってチケット価格の平均金額が上がった面はあると思います。ある1万人キャパの会場で、一昨年の稼働ではK-POPが15公演、15日だったのが、去年は30日、倍になったという数字にも表われているように、公演数も大幅に増えています。僕から見るとK-POPは完全に2つに分かれていて、プロデューサーのもとで欧米文化を積極的に取り入れて、クオリティーの高いステージをやっているアーティストと、「えっ? この金額で、もうおしまい?」という場合がある(笑)。おそらく前者は残っていくでしょうし、後者は淘汰されていくと思います。もちろん、そうなってしまったら、僕達も作り手側にいる一人として、責任を感じなくてはいけないでしょう。
ホットスタッフ・プロモーション横山和司
横山:それとK-POPの公演の影響だけではないと思いますが、欧米のアーティストのライブが減ったり、動員が落ちている面もあると思います。本国で人気があっても、なかなか日本でソールドアウトにするのは難しい。ただし、FUJI ROCK に関しては、既にレディオヘッドの出演が発表されていますが、今年のラインアップは充実しているので、チケットの動きはかなりいいでしょうね。(主催の)スマッシュさんは、うまくFUJI ROCKとの相乗効果を使って、まだ動員力がないバンドでも日本でブレイクさせる努力は続けていくでしょうし、新しい欧米の音楽を紹介するのは大事なことだと思います。
渡邉:海外アーティストはギャランティーやコストの面で金額設定が高めになるのは、それはそれで致し方ないと思うのですが、国内アーティストのさらなる活動のために、需要と供給のバランスを考えながら、海外のアーティストと同等に考える価値があると思います。
横山:最前列などのプレミアム・シートや、座席ごとの料金の差別化も含めて、今年はチケット価格を再検討していきたいですね。
土日集中を分散化へ
渡邉:チケット料金は、平日と土日で差をつけてもいいと思います。実際に土日は会場費も高いんですよ。そういったことを、きちんとお客様に開示できれば、例えば平日は6000円、土日は6500円にするということも可能じゃないでしょうか。選択肢が増えるのは、お客様にとっても、いいことだと思いますし。
横山:土日は各社が会場の取り合いをしているような状況です。これだけライブの本数は増えていて、東京近郊の会場は増えたといっても、大きいところは代々木体育館と武道館。横浜アリーナとさいたまスーパーアリーナ、それと幕張メッセ。それしかないんですから。
渡邉:むしろ会場費も、もっと平日と土日で差があってもいい。動員力があるアーティストほど、数年先のスケジュールが決まりやすいので、土日も早く押さえやすいじゃないですか。その時に会場費にかなりの差額があれば、「うちは平日でもお客様は入るから、土日の開催じゃなくてもいい」という選択も生まれると思います。それで「平日ではまだ難しいけれど、土日だったら大丈夫」というアーティストに回してあげることができる。土日の開催希望が殺到している現状を、今年はなんとか分散化させていきたいと強く感じます。
最後にコンサート・プロモーターとしての、今年の抱負をお聞かせください。
横山:僕はもともとライブの仕事がしたいと思って会社に入りましたし、会社もずっとライブを手掛けてきました。この仕事を専門にやってきた、コンサート・プロモーターだからできること、我々にしかできないスキルはまだまだあると思うので、それをより磨いていきたいですね。コンサート・プロモーターとして、簡単に真似のできないクオリティーを突き詰めていきたいと思います。
渡邉:僕は個人的に、お客様に「ありがとう」といってもらえる仕事をしたいなと思っています。ライブへのアクセスが格段に便利になって、会場に足を運んでいただける方が増えたとするなら、その人達により楽しんでもらいたいし、気持ち良く帰ってもらいたい。アーティストには僕達と仕事をして良かったと思ってもらいたい。「ありがとう」といわれるためには、どうしたらいいかと考えれば、そこにビジネスのヒントもたくさん隠れていると思います。夢を届けたり、お客様に笑ってもらうためには、薄利多売ではなくて、高品質型のサービス提供を目指したいですね。
本日はありがとうございました。