会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
フェス白書2010 これまでの10年、これからの10年
HIGH GROUND2010
開催中止…その時、主催者は
継続への強い思いが感じられるフェス—という点では、2003年より福岡で開催されている「HIGHER GROUND」も同様です。今年は7月24、25日の2日間、海の中道海浜公園野外劇場で無事行なわれましたが、昨年は台風による大雨洪水警報、雷・強風注意報発令のため公演中止。主催のキョードー西日本のHPに掲げられたメッセージ「『HIGHER GROUND 2010』は素晴らしいアーティスト達の賛同を受け大リベンジを果たします!」の通り、矢沢永吉、藤井フミヤ、ユニコーン、秦基博、10-FEET、チャットモンチー、スキマスイッチ、THEイナズマ戦隊、KREVAなど、昨年出演予定だったアーティストが再び福岡の地に集結して、同フェスは継続されることになりました。
改めて考えてみれば、野外フェスは常に天候などにより中止の危険性にさらされているといえます。「HIGHER〜」のように全日程が中止に追い込まれなくても、開催日のうちの1日、あるいは大規模フェスではステージが位置する環境によって中止になった例はこれまでもありました。フェスを続けていくためには、悪条件を乗り越えていくことも重要。キョードー西日本の取締役で、「HIGHER〜」を統括するポジションにある瀬口照国さんに、あえて昨年の「辛い記憶」から振り返っていただきました。
「『雨が痛い』と感じたのは、仕込みを含めたあの3日間が、初めての経験でした。福岡でも観測史上最大の雨量だったことと、もちろん苦渋の決断をしなくてはいけなかったことも含めて。開催日前日、(2日間のうちの)初日の出演者のリハーサルを始めたのですが、昼くらいまではまあまあ天気は良くて、夕方の5時、6時くらいからゲリラ豪雨になってきました。それでリハに関しては全部打ち切り。結局は夜中までずっと降り続きました。スピーカーや機材のケアをしながら、スタッフと相談して、朝の8時に初日を開催すべきかの結論を出しましょうということなり、ギリギリまで引っ張ったのですが、雨が止みそうにないことと、会場に至る道路が冠水、近隣の町には避難勧告、川も氾濫寸前、各地に崖崩れがあったという情報も入ってきて中止の結論を出しました。各交通機関に中止になったことはすぐ伝えましたので、会場に来るお客さんはほとんどいませんでした。
徹夜でスタッフが復旧作業を続けて、朝の4時半くらいに星が見えたんです。2日目はやれるぞと思ったのも束の間、5時過ぎくらいからまた集中豪雨になって、やはり交通機関が朝の8時の段階で止まり始めて、道路は冠水の状態が続いて……迷った末に朝8時より1分くらい遅れて、2日目も中止の決定を下しました」(瀬口さん)
フェスが中止になった場合、まず主催者がやらなくてはいけないことは、どんなことなのでしょうか。
「中止を伝える文面などはスタンバイしていますから、まずそれを弊社のHPに上げる準備をして、各交通・報道機関に伝えます。もちろん出演アーティストの皆さんに伝えて、次に中止の損害に対応するために保険会社に電話しましたね。その時に考えたのは、後々のために現場の状況を写真に残さなくては—ということだったんですが、天候による中止という場合は、省庁や関連機関で調べれば状況はすべて分かるので、一切いりませんということでした。いずれにせよ、僕達が第一に考えなくてはいけないのは、お客さんが安全に会場に来られるかどうか、無事に帰れるかどうか、そして会場内で安全に音楽を楽しめるかどうか—ですので、動員の規模(前年の2008年は初日18500人、2日目は13000人)を考えれば、中止は致し方なかったと思います」(同)
「大リベンジ」で得た希望
そういったハードな状況を経験し、中止を受けての残務処理も終えた後、キョードー西日本では今年の「大リベンジ」に向けて動き出しました。
「アーティストの方も『HIGHER〜』への出演を楽しみにしてくれていたのに、昨年は中止にせざるを得なかったわけですから、今年はまず昨年出演予定だった方々に声をかけるところからスタートしました。中には1年先までツアーが組まれている場合もあるので、若干は出演者も変わりましたが、快く引き受けていただいた方がほとんどでしたので、それが一番、今年の原動力になりました。地元の方からは『去年は大変だったね。今年はがんばろうよ』という声もいただきましたし、社内でも結束力が生まれましたね」(同)
ドラマチックだった2009年→2010年の流れは別にして、もともとキョードー西日本が「HIGHER〜」を続けているモチベーションとは、どこにあるのでしょうか。
「弊社で担当させていただいているアーティストが、プロモーション的にも、さらに1つ上のステップへ上がるために、野外フェスという場が必要だと考えたのが第一です。それによって、出演者の通常のコンサートもステップアップさせることができればという思いも当然ありました。そんな中でアーティストからの出演希望もどんどん増えていき、『九州の野外フェスといえばHIGHER GROUND』といっていただけるようになったのが2005年からだと思います。それまでフェスに出演していなかったMr.Childrenにトリを務めてもらえて、地元の方々からも熱心に応援していただけるようになった。ここで手応えを感じることができたというか、逆にもうやめられなくなったなと(笑)。
これからの10年は、今まで支持してくださったお客さん、協力していただいたアーティストに、こちらから何かを返していければと思います。そのためにフェスならではの特徴、例えば自然とともに音楽を楽しむ方法や、地域性をより高めていくことを、もっと追求しなくてはいけないでしょう。また、これは個人的な考えですが、初日は若い人向け、2日目はファミリー向けという構成もありかなと思っています」(同)
故郷が辿った歴史をゆっくりと、しかしブレることなく見つめる「うたの日〜」。ピンチがチャンスに転じたことで、観客やアーティストへの感謝の念が大きなモチベーションになりつつある「HIGHER〜」。同じく日本の南に位置しながら、それぞれ別のやり方で、2つのフェスは「これからの10年」へ歩き出しているようです。