―ほとんどの高額転売行為は、チケット転売サイトを通して行われていますが、サイト側が責任を問われることもあるのでしょうか。
東條:転売サイト事業者、いわゆるプラットフォーマーも高額転売行為の責任を負うのか、色々な考え方がありますが、いわゆる「共犯」であるとか「教唆、ほう助(その行為を行うよう、そそのかしたり手助けすること)」は当然この犯罪についても適用されますので、プラットフォーマーの行為が違法とされる可能性も当然ゼロではないと思います。プラットフォーマーが、アップされたチケットの内容をすべて確認することは困難ですので、プラットフォーム上で不正転売行為が行われたからと言って、ただちにプラットフォーマーに共犯が成立することはないでしょう。ただし、明らかに法律に違反するような取引を、主催者からの警告にもかかわらず放置し続けたような場合は、共犯とされる可能性は否定できないでしょう。法律の規制対象は転売行為そのものですから、チケット転売サイトの事業内容とも密接に関連するわけで、プラットフォーマーの責任が問われやすくなったといえます。
―この法律の施行により、チケットの高額転売は減っていくのでしょうか。
東條:もちろん罰則を恐れて、これまで転売行為を繰り返してきた人たちがやめる可能性はあると思います。ただし、チケットの高額転売問題は「高額でも買いたい」と考える人がいる、つまり需要があるから供給者が現れるというのが実態でしょう。しかも株などと違って、アーティストの人気やキャパシティによって、高額になることが容易に予想できる。簡単に利益を上げられて、在庫管理も容易であることから、手軽にできる金稼ぎとして問題が拡大しました。そんな中で、不正転売行為が明確に法律違反とされると、違法行為に関わることを恐れて、買う側も減っていくのではないかと思います。転売によって高額でチケットを購入すること自体は規制対象ではありませんが、警察の捜査対象になった不正転売行為については、当然購入者にも捜査が及び、事情聴取などをされることになります。何より、この法律の施行とは関係なく、高額転売が見込まれる公演について、本人確認などの措置は引き続き行われることになりますので、入場できないチケットを高額で買わされることになります。このように、高額転売に関わると面倒なことになる、リスクだけでメリットがない、との認識が広まれば、自ずと購入者が減るでしょう。そうすれば当然商売にもならなくなるわけで、高額転売は必然的に少なくなっていくと思います。
―法律の対象となるのは「特定興行入場券」ですが、特定興行入場券の指定について、コンサートプロモーターが注意すべき点を教えてください。
東條:まず大前提として、この法律によってすべてのチケットを特定興行入場券にする義務が課せられたわけではありません。特定興行入場券にするかどうかは、コンサートの主催者側が自由に選べるんですよ。事業者の方々でも、意外とこれを認識されていない方が多いようです。特定興行入場券にする必要を特に感じなければ指定しなくてもいいし、もちろん指定しなかった場合であっても、そのチケットは高額転売されて仕方がない、というわけではないんです。購入者と主催者との間における、「チケット転売をしてはいけない」という合意は、法律に関係なく有効ですから。
チケットの高額転売を規制する法律ができたことで、これまでの高額転売対策ができなくなるとか、むしろしなくてもよいことになるわけではなく、これまで譲渡や転売が禁止されていたチケットの一部については、転売行為に刑事罰が課される可能性が生まれた、ということなんです。