梅澤:クールジャパンに続いて、東京の街づくりのプロジェクトを始めて、最近はナイトタイムエコノミーを含むインバウンドの市場創造にも関わっている立場としての結論は、どのアングルから考えても、アートやカルチャー、エンタテインメントこそが、東京と日本が一番大事にすべきものです。そこでできることがあったら、僕はなんでもやりたいという気持ちです。
中西:ナイトタイムエコノミーを説明するために、「東京には観光客が楽しめるような夜の遊び場所がない」といった時、言葉の一部だけとらえてマイナスイメージを持たれてしまうことがあります。「夜遊び」が風紀を乱すものだと思われる現状を変えていきたいですね。夜間市場の創出は、世界の観光産業ではごく当たり前の話なのに。
梅澤:訪日観光客についていえば、夜間の体験消費に対する需要が明らかにあります。夜間の消費拡大のハードルが高いのは日本人の方かも知れません。
中西:そもそも日本人の「遊び」に対する考え方に原因があるんじゃないでしょうか。だから僕は「働き方改革」の前に「遊び方改革」を―といい続けているんです。「プレミアムフライデー」とか「ラグジュアリーマンデー」といった言葉だけが先行して、「とにかく遊ぶ時間をあげるから、あとは自分でなんとかして」みたいになってしまっている。その前に遊べる場をつくって、遊び方を具体的に示さないとダメじゃないかと。そこには僕らが関わっているようなライブをはじめ、エンタテインメントが全部入ってくるので、やれることはたくさんあると思うんです。
梅澤:日本人向けの夜間市場は、少し時間をかけて育てていく必要がありますね。今の若い人達は、遊び場ができたとしても、終電で帰ってしまいますから。少しずつ夜間市場を広げて、コンテンツも増やしながら、次の世代に夜の遊び方を体験してもらうことがいいと思いますね。結局、カッコいいライフスタイルを送っている人の数を増やして、彼らの背中を若い人達に見せていくしかない。すでに中西さんはたくさん背中を見せてこられたと思いますが(笑)。
中西:ちゃんと見せられているかどうか(笑)。それに僕は「ナイトタイム」エコノミーより、「ミッドナイト」エコノミーかもしれません(笑)。
梅澤:まあ、僕らの世代が夜遊びに誘っても、若い人達には伝わりにくいかもしれませんね。若い人達の異業種交流の集まりって、朝のほうが多いんです。夜遅くまで遊んでいる人は少ないというか、旧世代のライフスタイルだと思われている面もある。だからそこも変えなきゃいけない。多様性が大事ですから、朝アクティブな人がいれば、夜にアクティブな人がいてもいい。ライフスタイルの多様性を許容するのが都市の役割ですから。多様性に対する許容度は、ニューヨークやロンドンのダイナミズムを支える大事なポイントだと思います。
中西:たまに不思議に思うんですよ、夜にお酒を飲める場所は、世界でも日本が一番多い気がして。
梅澤:そうでしょうね。
中西:居酒屋もあれば、バーもある。
梅澤:バーはおそらく世界一ですね。数も、質も。
中西:それを活かしきれていない。
梅澤:先日30代、40代のクリエイティブ産業の幹部クラス40人が海外から来て、東京に1週間ステイしたんです。彼らに「夜は何してた?」と聞くと、ほとんどがカラオケなんですよ。ご飯を食べて、歌舞伎町のロボットレストランに行って、最後は大体カラオケ。「すごく楽しかった」とみんないってくれるんですが、こちらからすると「ああ、ごめん。それしかなかったんだね」という感じですね(笑)。海外から来た方は、そもそも時差ボケの人もいるわけですし、眠らず遊ぶエネルギーを持った人も多いのに、それこそ築地の朝市に行くまでの間、遊び場がない状態なんです。新宿などはまだ良いほうですが、外国人観光客に人気が高い秋葉原で、夜9時以降に開いているお店は極端に少ないんじゃないでしょうか。