桑波田:音楽業界の他業種の方からすると、音楽出版社=権利ビジネスというふうに考えがちだと思いますが、ベースにあるのは無名の作家をプロモートして世の中に出していくビジネスなんです。曲が売れるまでの間、アメリカではアドバンスという形で前払いする。それで生活を安定させてもらって、レコードが売れてきたら回収する。それがそもそもの音楽出版社のビジネスの成り立ちです。例えば20人なら20人の作家を集めて、「月曜日から金曜日まで1日2曲ずつ仕上げること」とノルマを課して、詞は誰がいい、曲は誰がいいとアッセンブルして楽曲に仕立てていく。そんなことを今も(アメリカの中でも音楽出版社が多い街)ナッシュビルで普通にやっています。音楽出版社の仕事には、クリエイティブな面と管理業務の両方があるんですよ。
中西:ところが最近は管理業務のイメージのほうが強いことも確かでしょう。
桑波田:そうでしょうね。例えば楽曲をDVDにする時、許諾について相談する窓口が音楽出版社になっているので、音楽出版社=検問所みたいな印象でしょうか(笑)。
中西:正直、そうかもしれないです(笑)。ただし、それは決して悪いイメージというわけではなく、我々も演奏権使用料の改定に関する、JASRACとの団体交渉を進めるにあたって、著作権というものに改めて目が向いた状況なんです。例えばコンサートプロモーターが支払った演奏権使用料がどう分配されているのか、JASRACはどういう役割を担っているのかを、みんな真剣に考え始めた。それはそれでとても大事なことだと思いますし、一方で音楽出版社のクリエイティブな面を知ると、何か一緒にやれることがあるんじゃないかとも思います。問題なのは専門的な見方だけをしていては、音楽業界全体が「ああ、こういうふうに成り立っているんだ」とはなかなか分からないことだと思います。
桑波田:本当にそう思います。同じ音楽ビジネスの仕事の中でも、著作権と著作隣接権の担当ではクロスチェックの作業が完璧にできているとはいえないですね。隣の島は近いはずなのに、かなり遠いんですよ。
中西:一番遠かったりするじゃないですか。結構壁が高かったりしますよね(笑)。
桑波田:僕はTBSから日音へ42歳の時に異動になったんですが、最初は日本語が理解できなかったですから。シブンケン? 支分権? なんのこっちゃみたいな(笑)。テレビの現場でADからディレクター、プロデューサーとやってきた経験が少しも役に立たなかった。だから音楽を志す人は若いうちに色々な仕事を少しずつかじっておくことは必要かもしれないですね。そうすれば音楽出版社が楽曲をプロモートするためのライブ制作とか、色々なことにつながるじゃないですか。逆にプロモーターの方達には、音楽出版社が持っている機能を把握してもらって、うまく活用する方法を考えてもらえればいいですよね。
中西:今年2月には音制連(日本音楽制作者連盟)さんとACPCで合同の研修会をやるので、次はMPAさんともご一緒したいですね。僕はどんどんクロスしていきたいと思っているんです。知識を身につけるのは、決して悪いことじゃない。知らないほうが損だと思うんですよ。音楽業界の他業種や海外の状況を学ぶことは大事だと思いますね。