中西:川淵さんはマディソン・スクエア・ガーデンを視察されましたが、あそこはまさに観客のために作られた会場ですよね。観客が楽しめるように多目的に使えるアリーナになっています。
川淵:そうですね。ある資料を見たら、年間400回使っているというから、1日でアイスホッケーとバスケットの両方で使ったり、イベントをやったりプロレスをやったりしているということですよね。フロアの設置も変えることができて。使う側から見ても、コストがそれほどかからないということでしょう。
中西:ベースになっているのは、スケート場なんです。
川淵:それに比べると、日本は「体育館」ばかりなんですよ。B. LEAGUEを設立した時、私はB1リーグへ参加できるクラブの条件として「5000人以上収容できるホームアリーナを持つこと」を挙げましたが、実は「体育館」ではなく「アリーナ」と呼ぶことに自分でも少し抵抗があったんです(笑)。日本のスポーツ界の人間は、「体育館」という言葉に代表されるような価値観から抜け切れないんだなと思いましたが、あえて「アリーナ」という言葉を連呼しました。それは競技をやる側ではなく、観る側、会場に足を運んでくださるお客さんのことを考えて、アリーナという言葉に相応しい会場を作ってくださいという意味を込めたつもりだったんです。
今後、B1やB2(B2の場合は3000人以上収容できるホームアリーナが条件の1つ)リーグ入りを希望する各地のクラブが出てきて、アリーナを作ろうとする場合は、中西さんやコンサートプロモーターズ協会の方にも入っていただいて、コンサート会場としても使えるアリーナの作り方、観客の立場を考えたサービスの在り方を相談できればと思っています。
中西:僕らの団体は全国に加盟社がありますから、各地でご相談に乗れると思います。
川淵:それと今日お話したかったのは、例えばある競技で横浜アリーナを使いたい場合、すでにその日程だとコンサートの予約が1週間入っていますという場合があるじゃないですか。大きなアリーナですと、コンサートやイベントでだいたい長期間の予約が入っているようですから、スポーツで借りられる余地がなくなるんです。主たるスポーツのイベント、天皇杯や全日本選手権、プレーオフなどについては、音楽業界側と事前に話し合いができたら、スムーズに予定が組めると思うのですが。
中西:スポーツのメインの大会は、年間でだいたいどの時期に開催されるのか決まっているんですよね?
川淵:ほとんど決まっています。
中西:決まっているのであれば、この問題はとにかくスポーツ側と音楽側で話し合いの場を設ければいいわけで、これまでしてこなかったことのほうが不思議ですよね。
川淵:そうなんです。逆にコンサートプロモーターの皆さんが「この時期はどうしても動かせません」となった場合、例えばバレーボールの天皇杯の決勝はちょっとズラしましょうとか、そういう話し合いもできるわけですよ。どっちが大事ということではなく、お客さんのために作ったアリーナをできる限り有効利用することが優先されるべきであって、そういう話し合いが今日をきっかけに実現すれば、私達にとって本当にありがたい。
中西:我々も全く同じです。観る側の目線に立って、このコンサートは有明アリーナで観たらすごく盛り上がるね、この競技はこの会場だといつも白熱するねという感覚が一番大事だと思います。
川淵:その通りですよ。もう昔ながらの体育館文化からは脱却しなきゃいけないね。Jリーグ創設の時に、スタジアムごとに女子トイレはいくつ、男子はいくつというところまでチェックしたんですよ。アリーナでも、やはりこの収容人数だと女性用はこれくらい必要だとか、考えなくてはいけない。ハーフタイムになったらズラーッと並ぶ感じは、できるだけ避けたいわけで。
以前調べたら、3000人以上入場可能な日本全国の体育館が80ヶ所以上あって、そのうち60は土足厳禁、物販厳禁でした。要するにそういう考え方の延長線上にすべてがあるんですよ。