スピッツが中心となり「手作り感覚」で運営されてきたイベント、ロックロックこんにちは! in 仙台が10周年を迎えて、会場をZepp仙台から宮城県国営みちのく杜の湖畔公園(みちのく公園北地区『風の草原』)に移しました。これだけの会場のスケールアップは、まさに「ターニングポイント」と呼ぶに相応しい変化ですが—スピッツのメンバーと二人三脚でイベントをオーガナイズするノースロードミュージック取締役・井上馨さんに「本当のねらい」をお伺いしました。
会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
フェス白書09 10年目のターニングポイント
ロックロックこんにちは! in 仙台
いい意味での「ユルさ」を大切に
ロックロックこんにちは! in 仙台がスタートした経緯から教えていただけますか。
井上:ロックロックこんにちは!というイベントは、1997年から大阪で行なわれていました。当時からスピッツが中心になっていたのですが、それをZepp仙台がオープンした2000年のタイミングで、仙台でも開催しようということになったのが始まりです。いわば「のれん分け」のような形ですね。スピッツを担当していた僕の上司が、同じようなテイストのイベントを手掛けていたこともあって、スムーズに話は進んだようですね。
昨年までのZepp仙台から、今年、一気に野外フェスになるわけですから、大きな変化ですよね。
井上:今年はたまたま10周年ということで規模を拡大して野外で開催することになりました。いや、本当に「たまたま」なんですよ(笑)。来年は野外でやるかどうか分かりませんし、まだ今後のことは何も決まっていません。スピッツのメンバーとも「こういうユルい感じで続けていったほうがいいですよね」という話をしています。
もともと何気なく始めて、続ける意志も強く持っていたわけではないんです。以前はソールドアウトにもなっていませんでしたし、正直にいえば赤字運営でした。3年目くらいから、お客さんに認知されてきて、即日完売するようになりましたし、収支的にもバランスがとれるようになりました。その頃からスピッツのメンバーが企画・主導しているということも明確に示すようになってきたと思います。当然ですがメンバーは参加アーティストの希望も出してくれますし、前説をやってくれたり、予定にない場面で登場して数曲ほど演奏してくれたり……ここ数年は本当に積極的に参加していますね。
「フェス」とは違う立ち位置
各地で行なわれているフェスと比較すると、特異な存在なのかもしれませんね。
井上:ロックロック〜は「フェス」と呼べるような大それたものではないですよ(笑)。堅苦しいことを抜きにした、ただのユルい音楽イベントというか。メンバーもそういった雰囲気を望んでいると思います。今年は確かに10周年ということで豪華なキャスティングになりましたが、楽屋の雰囲気も含め、いい意味でのユルさ、手作り感は失わないようにしようと考えています。
フェスはここ10年でかなり数が増えてきましたよね。それぞれが素晴らしい内容を作られていると思いますが、やはり、これだけ多くなってくると差別化するのが相当難しいと思います。全く違うものにするのは大変でしょうね。どのエリアでも同じような顔ぶれになってきてしまう面はどうしても出てきてしまう。その流れとは別の位置にいたいという気持ちはありますね。
運営や演出面で気をつけていることはありますか。
井上:もちろん今年は2万5千規模の大規模な会場になりますから、騒音や渋滞のことなど、近隣の住民の方々との調整が格段に増えましたね。住民の皆さんは非常に協力的に対応してくださっているのですが、この会場をコンサートで使用するのは初めてだったり、すぐ近くに住宅があったりするものですから、そこは一番注意しています。
演出面では、毎年どこに盛り上がりのポイントを持ってくるのか相当悩みますが、ラクな感じを維持しつつ、例えばセッションをしたり、予定にない場面でスピッツが登場したり、刺激になる部分も必ず作るように気をつけています。
個人的にはスピッツのようなキャリアも長い素晴らしいアーティストと、イベント作りの本職として対等な立場で仕事をさせていただけることが本当に幸せだと思っています。自分にとっては本当にいい経験になっていますね。こちらの意見もちゃんと聞いてくれますし、メンバーから出てきた意見を僕のほうでどう料理して、実現させていくかという意味ではやりがいがあります。他の仕事をやる時でもロックロック〜の存在がパワーになっているんですよ。