中西:そういう制作過程を経て生まれてきた作品だから、やっぱり僕たちは感動するんだと思うんです。紫舟さんの作品を知っていて本当に良かったと思ったのは、やはりCOMPLEXの再結成コンサートの時ですね。東日本大震災の直後に紫舟さんがテレビ番組に出演されて、「日本一心」と書いた。僕はそれを見て感動したのですが、再結成が決まってタイトルをどうしようかと悩んでいる時、その言葉が自分の中に降りてきたんです。それで、すぐに紫舟さんに電話して、書をタイトルに使わせていただくことを快諾してもらいました。もちろん、吉川(晃司)君も布袋(寅泰)君も即決でOKしてくれて。まさに紫舟さんの書である「日本一心」が、コンサートに関わった人たちの心を、あっという間に一つにまとめてくれたんです。
紫舟:私も新聞の全面を使った、再結成を告知するあの広告を思い出します。
中西:COMPLEXの再結成は、おそらくほとんどの人が「日本一心」という言葉、あの書とともに記憶しているんじゃないでしょうか。さらにいえば、その記憶が「震災を忘れない」という気持ちにもつながっていると思いますね。
紫舟:あの書は、書が持つ役割を充分果たしてくれたと思っています。テレビで「日本一心」と書いたのは、震災から1週間後です。致し方ないことですが、多くの人たちの感情が高ぶり、怒りや叱責で日本がバラバラになりそうな雰囲気がありました。そんな中で、みんなの心を一つにして力を合わせることができれば、私たちは必ずや成し遂げられるという思いを込めて、筆を持ち一度だけこの言葉を書きました。通常であれば作品は同じ文字を500枚ほど書きますが、あの時は本当に一度だけ。それを中西さんやCOMPLEXのお二人に使っていただいて、何万人、何十万人の方々が見てくださって、本来、書が持つべき力を発揮することができたのだと思います。そういう経験は、芸術や文化に携わっていても、なかなかできないですよね。文化は無力だと考えがちな状況下において、書には力があることを教えていただきました。