ACPC20周年記念事業 研修会ダイジェスト
感謝の気持ちと未来への可能性に溢れた1日
小林武史
(鳥籠舎代表取締役)
プロダクショントップに聞く、今後のプロモーターの在り方
アーティスト/プロデューサーとしての活躍はもちろん、音楽プロダクション代表、音楽制作者連盟理事としての顔も広く知られている小林武史さんに、今後のコンサート・プロモーターの在り方についてご意見を伺った。
まず「コンサート制作に携わっている現場の方から、生の意見を聞くことがとても勉強になっている」と語った小林さんによると、社風として掲げているわけではないが、烏龍舎のマネージャーは皆、各地のプロモーターと自然と親しくなり、新人アーティストを売り出す際には特に、率直な意見交換が重ねられているという。一方でナビゲーターを務めた中西健夫常任理事は「業界全体では、そういった話し合いが少なくなっていると思う。マネージャーと各地のプロモーターの交流会を定期的に行なうなどの工夫が必要」と実感しているそうだ。
また、小林さんは、「音楽エンタテインメントの中で、コンサートの位置づけはますます重要なポジションになるはず。不法なデジタル・コピーの問題に解決の糸口がなかなか見えない中、リアルな体験であるライブは貴重」とコンサート・ビジネスの成長に期待を寄せつつ、「従来とは違うやり方もあると思う。映画の場合は、出資者を募って制作委員会を立ち上げるスタイルが定着しているが、音楽業界でもコンサートやフェスティバルを行なう時に、プロダクションやレコード会社、プロモーターやメディアが集まって、制作委員会方式で開催することも可能なのではないか」と、新しいアイディアを提示した。
さらに小林さんは「この地球という“奇跡の星”に音楽があるということは、まさにとびきりの奇跡。素晴らしい音楽が存在する意義を見つめ直して、アーティストが思い切り音楽を楽しみ、演奏できるという状況をつくって欲しい」と若いプロモーターへの励ましの言葉を述べ、中西常任理事の「一緒に音楽エンタテインメントを盛り上げていきましょう」という賛同の発言で講演は締めくくられた。
プロフェッショナルと観客の目線が交差する場所
今後のプロモーターの在り方
西茂弘さんが代表を務めるオン・ザ・ラインはプロモーターと制作業務の複合体の会社だが、西さんによると「CDだけではなく、ライブや他の新しいビジネスで収益を上げないと、業界全体が地盤沈下を起こすのではないかと考えた。それと複合体の会社にしたほうが、制作費のコスト圧縮になることもあり、約10年前に現在のような業態にした」とのこと。 ACPCに対しては「例えば同じ系列のホールでも、立ち見可能/不可能、オーケストラピットを設置できる/できないなど条件が違う。訂正・改正できる会場は数多くあるため、ACPCから全国自治体に掛け合っていただけるとうれしい」と要望を語った。
渋谷陽一(写真右)
(ロッキング・オン代表取締役)
浜田省吾さんのマネージメントを約30年間続けている岩熊信彦さんは、「現在54歳のアーティストながら、ここ1年でファンクラブ会員が1万人増え、観客動員も伸びている。シーンの第一線に立ち続ける数少ないアーティストという自負もあるが、マネージメントも長くやり続けることが基本。そして一番大事なのは、自分自身が楽しむこと」と語る。
さらに「最近のマネージャーは、アーティストの夢をプロモーターにきちんと伝える努力をしているか疑問。僕はそのマインドを共有してきたからこそ、30年間続けられたと思う」と加えた。
出版社の代表を務めながら、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」などを成功させている渋谷陽一さん。「僕は年間100本以上のライブに足を運ぶ、いわば観客のプロ。だからプロモーターの方からは非常識だと思われるようなことでも、それが観客のためになるなら実現させたい」という発言に対し、中西常任理事が「観客と同じ目線で見ることを僕らは忘れがちになっている。渋谷さんに学ばなければいけないことが多い」と答えた。
最後に渋谷さんは「もし自分がゼロから音楽産業を始めるなら、レコード会社、メディア、新人発掘などあらゆる機能を持ち、産業として成立し得るプロモーターを選ぶ。新しい音楽産業はそこから生まれると思う」と発言を締めくくった。
ユーザーという「他人」とのコミュニケーション
エンドユーザーの対応の仕方
宮竹直子
(ジェーシービー執行役員・業務本部コミュニケーションセンター部長)
アーティスト/プロデューサーとしての活躍はもちろん、音楽プロダクション代表、音楽制作者連盟理事としての顔も広く知られている小林武史さんに、今後のコンサート・プロモーターの在り方についてご意見を伺った。
JCBのコミュニケーションセンターとは、お客様からのあらゆる問い合わせに電話やメールで答える部署。その部署の統括をされている宮竹直子さんに、エンドユーザーへの対応についてお話を伺った。
最初のテーマ「自分を知る、他人を知る」では、客席から「私は○○です」と、○○に当てはまる言葉を考えられるだけ挙げてもらい、それが自分にとって何割ぐらい占めるのかを記入してもらうことからスタート。「例えば“私は○○の社員です”が50%占めていたとすると、会社を辞めた時、この50%を何で埋めるのか、自分を見つめ直すことが必要」とのこと。
続く「他人を知る」では、先入観をなくし、自分とは違う他人の異質な感覚を認める必要が説かれた。「チケットの注文の電話を受ける時も、その異質な感覚を認めることは重要。様々な年齢の方がチケットを注文されますが、時間感覚も年齢によって異なります。ご高齢の方は理解するスピードも落ちるので、その気持ちをくんだ応対が必要です」。
次の「自分を変える」では、「相手の考え方を変えることは大変ですが、自分の考え方を少し変えると、楽にコミュニケーションが取れる」とポジティブなアドバイス。
さらに「予測と検証を繰り返す」では、新聞の謝罪広告を題材に、告知文を読んで感じたこと、不明点について客席から意見を募り、それをもとに「日常的な業務は、予測と検証の繰り返し。前回ミスしたことは繰り返さず、その経験を踏まえて対応策を立てることが大切」との結論を提示してくださった。
最後の「顧客対応を楽しむ」では“聞く”ことの重要性について、「お客様と電話で応対する時は、音として聞くのではなく“傾聴”の姿勢で」。また“聞き間違いや言い間違いを避ける”ポイントとして、「1と7は聞き間違えやすいので、日にちを確認する際には、シチではなくナナと言ったり、曜日を付け加えたりすることも有効です」とご指摘いただいた。
プロフェッショナルと観客の目線が交差する場所
今後のプレイガイドの在り方
山崎芳人副会長のナビゲートのもと、偽造チケット問題の現状と表題のテーマについて、チケット流通業界を代表するお三方に語っていただいた。
坂本健(写真右)
(ぴあ取締役・専務執行役員)
まずは橋本行秀さんから「特殊なパールインクを使用したチケットにしてから、偽造チケットの問題が出ていないため、一応の解決はできたと考えている。今後は正規のプレイガイド等でチケットを購入して、ネットオークションでは購入しないように、啓蒙活動を展開していきたい」と現状報告。
野林定行さんには、実際に被害にあい、犯人逮捕〜厳しい実刑判決によって偽造がなくなった経緯を語っていただいた。
坂本健さんからは「オークションで付いた価格は、市場が決めている側面もある。ニーズがあれば高くても買ってもいいと思う人が出てくるのは事実。今後は売買する人の素性をはっきりさせた、公式なオークションの設置を研究する必要もあるのではないか」という一歩踏み込んだ提案が出された。
チケット流通の目指す方向については、「プレイガイドだけでチケットを販売する時代は終わり、インターネットにその中心が移行していく中、我々がライブ・ビジネスにどういう形で寄与できるか、プロモーターの方々と一緒になって考え、参加させていただくとありがたい」と橋本さん。
「コンサートや演劇に数多く足を運んで、感動を与えてくれる世界があるということを改めて実感した。お客様に感動を伝え、どれだけ素晴らしさを紹介できるかがチケット事業者の使命。感動の輪を広げることで、世の中にも貢献できる」と野林さん。
「ネットや携帯というバーチャルな世界が広がる反面、ライブを楽しむ欲求は今後ますます高まるはず。ライブ空間における新しい楽しみ方を、皆さんと一緒に創出する時期にきていると思う。また、高齢化社会を見据えて音楽を供給する企画も一緒に考えていきたい」と坂本さん。
より幅広い観客のニーズをくみ取ったイベントをプロモーターと一緒につくり上げていきたいという希望を、それぞれの言葉で語っていただいた。